回路設計を進めていく上で、どれだけネットを探しても見つからない回路記号もあります。
そんなときに使用する「シンボルエディター」の使い方についてご紹介します。
電子回路を設計する時に必要な「シンボル」「フットプリント」「パッケージ」については、以前の記事でもご紹介していますので、そちらも併せてご覧頂ければと思います。
回路記号=シンボルを自作しよう
まずKiCadに限らず、EDAを使用して回路に使用する回路記号(シンボル)を自作する際に注意する点を以下にまとめておきます。
1.シンボルとフットプリントのピン番号は必ず同じ番号、構成にする
2.現実に存在しないシンボルを作ってしまわないよう、電子部品のデータシートは必ず目を通す
3.既存のシンボルが存在していれば、特別の理由が無い限りそちらを優先使用する
4.独自に編集したシンボルは必ず別名を付け、標準ライブラリのシンボルを上書きしない
例として「ATMega328P-A」の回路図エディター用シンボルを見てみましょう。
KiCad標準ライブラリは、データシートなどで良く見かけるピン配置で描かれています。電子工学を学んでいる人であれば見慣れた形で「見やすい」と感じる人も少なくないでしょう。
しかし、初めて電子回路を設計する人の場合「ピン番号の順番がめちゃくちゃで分かり難い」と感じることがあります。実際にKiCadを使った入門セミナーなどを開催した際にそういった声をよく聞きます。
一時期、なんでわかりにくいと感じるんだろう?と疑問に思っていたのですが、KiCadを使う人が増え始めたのとほぼ同時期に広まり始めた「電子工作ブーム」のけん引役、Arduinoマイコンボードのピン配置図を見たらその理由がすんなり理解できました。
重要:「信号の番号と部品のピン番号は一致しないのが普通」
「シンボルのピン毎に表示されている情報が足りない」
「信号の番号と、マイコンのピン番号が一致しない」
いやいや、Atmegaのシンボルはあくまでマイコンチップの情報で、Arduinoの情報じゃないからそんなの当然でしょ、という声が聞こえてきそうですが。
実際にユーザーがATMegaマイコンにArduinoのブートローダーを書き込んで使う前提の、設計専用のマイコンボードを作りたいといった場合で
「あらかじめピン番号で信号名がわかるように書き込んでおきたい」
「ピンの位置が一目でわかるようにしたい」
という目的を理由に、用途を限定したシンボルとしてカスタマイズするためにエディターで編集することは実際によくあります。
ATマイコンを実際にシンボル作図する
では、これ以降は実際のマイコンICを例にしながら、シンボルエディターの使い方解説を進めて行きます。
Atmega328Pをそのまま参考にしても良いのですが、このマイコンのピン数は40本あります。初めてKiCadを触る人の場合、いきなりこれをゼロから描くのはなかなか大変です。
なので、ここからはピン数が少ない簡易マイコン「ATTINY85-20PU」のシンボルを作図しながらシンボルエディターの使い方を説明したいと思います。
一通りの流れを覚えてしまえば、ピン数が8本でも40本でも楽々進められるようになりますので、まず簡単な例でマスターしましょう。
もちろん、ATTINYマイコンのシンボルはKiCadの標準ライブラリにも登録されています。今回はあえて説明用として、新しくシンボルを作成してみようと思います。
シンボル作成の流れ
シンボルエディターを起動したあとは、以下に示す流れで新しいシンボルを作図していきます。基本的には従来バージョンのシンボルエディターから変わっていません。
「登録するライブラリの確認、シンボルを新規作成」
「シンボル名称とリファレンス記号、ピンを配置する」
「ボディを作図する」
「シンボルを保存する」
それでは、プロジェクトマネージャーからシンボルエディターを起動しましょう。
シンボルエディターを起動したら、最初に作図するシンボルを登録するライブラリを確認します。
KiCadのシンボルは、インストール直後に登録されている標準ライブラリや、ダウンロードして追加したライブラリ等に保存されています。
標準ライブラリには、シンボルを追加、上書きはできません。独自に作成や編集を行ったシンボルを保存するには、インストールされたPC上に独自のライブラリファイルを作成する必要があります。
新しくライブラリを作成する場合は「ファイル」-「新規ライブラリ」の順に選択し、任意の場所に名前を決めて保存します。次回以降はこのライブラリを選択して、描いたシンボルを追加していけば回路図エディターで使用可能になります。
「新規ライブラリ」をクリックすると、追加するライブラリテーブルの選択を求められます。グローバルを選択すると、今後このKiCadで作成するプロジェクト全てで使用可能なライブラリとして設定されます。「プロジェクト」を選択すると、現在開いているプロジェクトの中でのみ使用するライブラリとして設定されますが、専用にする理由が無い限りは新規シンボル用のライブラリはグローバルを選択しておくことをお勧めします。
また、追加されるライブラリの保存先についてですが、KiCadの方からは特に指定はありません。マイドキュメント下に管理用のフォルダを作り、そこに一括保存しておく方法は後々のファイル管理が楽になるので、一例としてご紹介しておきます。
ライブラリの準備が出来たら、シンボルの作図を開始します。
最初に登録したいライブラリを選択してから、「ファイル」-「新規シンボル」の順にクリックします。
すると、作図するシンボルの基本的なプロパティを入力するウィンドウが表示されますので、必要な項目を入力して行きます。
入力する項目が複数ありますが、通常のシンボルを作成する上では次の3つが必須項目です。
「シンボル名」:必須入力です。電子部品の型番や名称を入力することが多いです。
「デフォルトのリファレンス記号」:いわゆる部品番号の先頭につく文字です。エディター作図のシンボルはデフォルトで「U=Unit」が入力されていますが、任意の文字を入力することもできます。
「パッケージ内のユニット数」:通常は1のままです。オペアンプなど複数の論理回路が入っているIC等の場合、複数のシンボルが集まって1つの部品になっている場合があります。そういう場合に限りユニット数の値を変更します。
また、最新バージョンのシンボルエディターでは、電源シンボルを新たに作図したり、外部コネクタや解説用シンボルなど、回路図に表記したいが部品表や基板には含まない、といったシンボルの作図も可能になりました。
活用の幅が広がりましたので、これまでKiCadを使われてきた方々も、もっと回路図上での表現を広げられるようになっています。
「ATTINY85-20PU」のシンボル作図
今回は「ATTINY85-20PU」を新たにシンボルとして作図します。
型式の末尾(U)は、データシートを見る限りシンボル上に記載する必要は無さそうですが、今回はあえて記載した状態で進めて行きたいと思います。
新規作成をクリックして開いたウィンドウに、シンボル名、リファレンス記号を入力してOKボタンを押します。
すると、エディター画面中央にリファレンス記号が表示された状態からスタートします。リファレンスの文字が大写しで表示され少し驚きますが、描画されている物を最大表示しているだけですので、縮小表示しながら作図を進めて行きましょう。
具体的に作図を進める前に、画面左側の画面設定アイコンを確認します。
各機能については図の通りとなります。
各画面設定アイコンは必要に応じて表示のON/OFFを切り替えればよいのですが、特に単位系の選択については慎重に行ってください。KiCad標準ライブラリに限らず、電子回路のシンボルはほぼすべて「インチ単位系を基準」に作図されています。特別な理由が無い限りはmm単位系を使用することは無いと覚えておいて下さい。
「実際のコネクタのピン配置がmm単位系なんだけど」という疑問を持たれる方もおられるでしょうが、回路図上のピン間隔は、実物の寸法に何ら影響を与える物ではありませんので、作図の基準を優先して頂けばと思います。
単位や画面表示関係の設定が確認できたら、編集エリアでの作図に取り掛かります。
とりあえず画面中央に表示されているリファレンス記号の位置を動かして作図しやすい状態にしましょう。リファレンス記号の文字を左クリック、続けて右クリックすると、編集用のサブメニューが開きます。
ここで「移動」を選択すると、マウスカーソルに記号がフィットした状態になり移動できるようになります。配置したい場所へカーソルを移動させて左クリックを押すとその場に配置されます。
この「記号の上で右クリック」からの「サブメニュー選択」は、KiCad全体での共通操作なので早いうちに慣れておいて下さい。
編集するスペースが確保できたら、信号を接続するピンと部品であることを示すボディを作図します。順番はどちらからでも良いのですが、今回はイメージをつかみたいので先にボディを作図します。
画面右側の作図用アイコン「矩形を追加」をクリックしてアクティブにし、任意の場所で始点、終点の順にクリックして矩形(四角形)を描きます。
この時点ではまだ四角形の寸法や形状にこだわる必要はありません。
矩形が描けたらESCを押してアイコンを解除するか、右上の黒矢印アイコン「アイテムを選択」をクリックして編集モードに戻します。
描いた図形を選択してサブメニューを開き、プロパティを呼び出します。
プロパティ画面の左側に描いた線に関する設定を調整するためのメニューがあります。
線幅、線色、破線や点線といった線種の変更等を行えます。これらのメニューは矩形よりも線や円弧を描画したときに役立ちます。
プロパティ画面の右側には塗りつぶしのメニューがあります。今回は半導体ICのシンボルを描くので、シンボルの中心になる矩形を「背景色で塗りつぶし」して信号を判別しやすくしておきます。
次は作画アイコン「ピンを追加」で信号ピンを配置していきますが、この段階までに作成するICのデータシートを確認しておきましょう。
このデータシートの情報をもとに、シンボルにピンを追加して行きます。
ATTINYシリーズデータシート(秋月電子提供)URL
https://akizukidenshi.com/goodsaffix/attiny25_attiny45_attiny85.pdf
「ピンを追加」アイコンをアクティブにすると、1本目のピンのプロパティを設定する画面が開きます。
必要な情報を入力または選択してOKボタンを押し、任意の場所に配置します。
とりあえずピンを1つ置いてみました。この状態ではピンが長すぎるのと、矩形が小さすぎることがわかります。
矩形はあとで直すとして、まずはピンのプロパティを開いて長さを調整します。
ここではピンの長さを標準設定の0.2inchから半分の0.1inchに変更します。
同時にデータシートから、ここのピン「PB5」にはマイコンの機能として重要な「RESET」の信号が割り当てられているのが分かりますので、ピン名の項目に追加します。
矩形も編集に充分な大きさになるように、いったんサイズを変更します。
続けて残りのピンもシンボルに追加していきます。
信号を順番に、一直線に並べただけの作図だとこのようになります。
さすがにこの図では回路図を描くのに少々使いづらいので、まずはデータシートに描かれているような、実体配置に変更してみます。
ピンはプロパティから、向きを変更できるので、矩形の左右にピンが配置される形に配置を変更しましょう。
実体配置に合わせてシンボルを編集したものが上画像です。
この状態で仕上げても回路図には使用できそうですが、電子回路を描く際のルールというか、作法のようなものに
「電源は上(Vcc)から下(GND)へ」
「信号の流れは左から右へ」
というものがあります。
これに合わせる形でシンボルをもう少し修整したいと思います。
まず電源ピンである8番ピンを上に、4番ピンを下に配置します。信号は双方向になりますが、ここではマイコンが信号の発信側と見立てて右向きに整列させます。
この際、信号ピンを並べる順番は、ピン名の方に番号が振られていればそちらを優先した方が回路図を描きやすいのでお勧めします。
シンボルの形ができたら、エディター上部のアイコンから「シンボルのプロパティ」を開いて残りの必要な情報を追加します。
新規シンボルの場合、プロパティの一般設定の項目はリファレンス記号が登録されているのみになっています。
この状態では以降の編集にも不便なので、以下の項目を設定しておきます。
「値(型式など):ATTINY85-20PU」
「フットプリント:標準ライブラリからDIP8-W7.62を選択」
「データシート:URL等貼付け」
設定後にシンボルを保存すれば、以降の回路設計でこのシンボルを使用可能になります。
「ピンテーブル」で一括編集
今回の作業ではピンの追加を1本ずつ行いましたが、「ピンテーブル」を利用すれば一度に複数のピンを追加できます。
エディターメニューの「編集」-「ピンテーブル」をクリックして開かれるウィンドウで、左下の「+」マークを押してピンを追加、各項目に先に解説したのと同じ要領で信号名、タイプ、線の長さや向きを設定できます。
大量のピンを一度に追加したり、一部分だけを編集するときなどに便利です。
全ての編集が終わったら、保存アイコンを押してエディターを終了します。
回路図エディターの「シンボルを配置」メニューから登録したシンボルを呼び出して使えます。
回路図エディターとシンボルエディターを組み合わせて使えば、新規シンボルだけでなく仕様変更で一部信号が変更になった電子部品を、古いシンボルデータをもとにして更新するといったことも可能になります、ぜひご活用ください。
活用させて頂いております
K2CADというCADを以前から使っていたのですが
似た名前のKiCADに乗り換え何となく使っていましたが・・・・
わかりやすい説明であらためて不明点も良く理解できたいへん助かります。
ありがとうございます。
ありがとうございます。今後もわかりやすい解説を心がけます。
内容的に重複するところはありますが、YouTubeチャンネルで動画での解説も始めましたので、興味があればご覧になってみてください。