回路図データ流用の注意点

別記事でATTiny85を搭載した簡易マイコンボードのプリント基板事例をご紹介していますが、今回はもう少し高度なマイコンボードとしてArduino互換ボードの設計をしながら、回路図データの流用に関して解説と注意点をご案内したいと思います。

今回設計する回路はコンパクトで使い易い「Arduino NANO」互換ボードの設計を目指しています。

過去の設計データ=技術資産を活用しよう

最初にテンプレートからプロジェクトファイルを作成します。

システムテンプレートのタブから「Arduino NANO」を選択します。

テンプレートファイルを使用するメリットは、マイコンの外形と外部IO用のピンレイアウトがあらかじめされた状態のプリント基板エディターのファイルを生成できる点にあります。

この配置済のデータを利用する事で、既存のマイコンやシールド基板との互換性を確保した状態で設計を進められます。

回路図エディターに既存ファイルを読み込む

回路図エディターを開くと、外部IOと接続するコネクタ部分のみシンボルが配置されています。ここに必要なシンボルを追加しながら回路図を描いていきます。

今回は以前設計したArduino Uno互換ボードの設計データと、

公式サイトで公開されているArduino NANOの回路図を参考にしながら設計を進めていこうと思います。

回路図エディターのメニューから「回路図シートの内容を挿入」を選択し、流用したいプロジェクトの回路図ファイルを指定します。

流用するファイルも最新版のKiCadで設計されていれば、回路図と割り付けられたフットプリントファイルの両方が読み込まれるので続けて修整作業を行えば楽なのですが、現在の最新バージョンである「Ver.6.0.**」シリーズでこの機能を使用する場合、読み込みたいファイルに旧バージョン由来の設定などが残っていると色々と不都合が生じます。

Ver.6にVer.5以前の設計ファイルを流用する時は要注意

まず最初に「Vre.5以前の図面ファイル自体は読み込めない」事に注意して下さい。

一度Ver.6でプロジェクトを読み込み、新しいフォーマットで保存した回路図ファイルは同一フォルダ内に新旧2つのファイルとして保存されます。

この状態であれば、最新バージョンに変換された方のファイルを流用するため読み込む事が可能になりますが、一度も最新バージョンでファイル変換を行っていないプロジェクトのファイルの場合、旧バージョンの回路図ファイルを読み込み対象として指定する事ができませんので注意しましょう。

次に「旧バージョンのライブラリデータは基本的には引き継がれない」点にも注意して下さい。

Ver.5から6に更新されたタイミングで、シンボル及びフットプリントのライブラリデータは一新され、ファイルそのものに互換性はあるもののエディター上では一度切り離されているため、読み込み時にエラーを警告する表示が出ることがあります。

ロードを続行しても特に描画された回路図がクラッシュする事も無く、ファイルの読み込みは一見正常に行われた様に見えます。

しかし、プロパティを開くとフットプリントの項目で指定されている「旧バージョンのファイル指定先」が無効な状態にある事を知らせるメッセージが表示されます。

この現象が起きてしまった場合は、最新バージョンのフットプリントライブラリに一個ずつ割り当てをやり直すしか方法はないようです。

結構深刻な「シンボルのリファレンス値が消える」問題

そして、旧バージョンファイルからの流用で最も頭を悩ます問題が

「シンボルのリファレンス名が消滅する」現象です。

この現象について「同じ最新バージョン(当時の時点で6.0.5)の回路図ファイル同士でも起きた」というお話も伺っていますが、発生頻度的には旧ファイルからの変換→ファイル読み込みの時にはほぼ確実に発生する現象です。それ以外の場合は何らかの理由で旧バージョンからのデータが影響した結果なのではないかと考えています。

この状態ではプロパティの編集もままならないので、一個ずつリファレンスの欄を追加するしかありませんが、この状態でアノテーション処理「回路図シンボルのリファレンス指定子を記入」を実行する事で、全シンボルにリファレンスの先頭記号を一気に追記する事も可能です。

・・・ただし、全てのシンボルのリファレンスが「U」で始まるものになります。

どちらにしても、回路図をシートに追加した後でシンボルを一つずつ編集していく事は避けられそうにありません。

この様な手間や問題が発生しますが、描かれた回路図そのものは読み込み可能なので、これまでに構築して来た資産を流用する機能として「回路図シートの内容を挿入」メニューは便利である事には間違いないと思います。

回路によっては書き直した方が早い・・・?

マイコンボードの設計自体については、今回の回路はそこまで複雑な構成をしていないので、結局回路図の流用は諦めて新規に書き直す事にしました。

プロジェクトをテンプレートから作成した事で読み込まれたコネクタはそのまま使用しています。また、今回互換化するに際して、接続するUSBコネクタだけオリジナルの「Micro-B」から「Type-C」に変更しています。ICSPピンについては省略しました。

USBコネクタからシリアル変換ICまでの構成は、公式回路図にもあるFT232RL版と、簡易変換キットでも多く採用されているCH340E版の2種類を作図してみました。

筆者としてはCH340Eも使い慣れているのでこちらで進めようかなと思っていたのですが、FT232RL版で構築しないと外部にセンサ用の3.3Vが取り出せない事が判明しました。

なので、下記に示したプリント基板の画像はCH340E版が示されていますが、互換ボードとして最終的にはFT232RL版でプリント基板を完成させようと考えています。

いわゆる「ロゴマーク入れている暇があるなら3.3Vのレギュレータくらい入れとけ」と言うやつです。いや全くそのとおりです。

便利な機能が沢山追加されているVer.6シリーズなのだけど・・・

この様に、過去の設計資産を流用できるメニューは大変便利な機能だと思います。

ですが、正直なところを言えばKiCadのVer.6シリーズについては各所に注意点や重大なデータの欠損を引き起こすリスクが多数潜んでいる為「慣れて来た辺りが一番トラブルに逢いやすい」いわゆるエキスパートトラップがゴロゴロしている状態のツールになってしまっているというのが現状だと思います。

「Ver.7.0.0」が、それらの問題を解決した状態でスタートしてくれるよう期待しています。

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KiCadの達人
KiCad歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCadの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。