今回は、KiCadのツールの一つ「ガーバービューワー」の活用方法をひとつご紹介します。
昔の設計資産を活用する
KiCadが世界的に知られるようになったバージョン4シリーズが公開されてから10年程が経過し、現在はバージョン8シリーズがリリースされています。
国内でも多くのユーザーがバージョン4からKiCadを利用し始め、現在に至るまでに膨大な設計データの蓄積を保有しているエンジニアや愛好家の方も多いでしょう。
また、国内ではKiCadが広まるよりも以前からPCBレイアウトエディターのフリーウェア「PCBE」を使ってプリント基板を設計するユーザーが大勢いました。
電子工学系の学生さんであれば、一度はPCBEをダウンロードした事があるのではないかと思います。
この様なことから、一度作ったことがある回路、基板の改良や活用において「他のエディターで作ったガーバーデータをKiCadに取り込みたい」「古いバージョンのKiCad設計データから活用したい」という場面はよくあります。
有名なEDAの「Eagle」(現在はAutodesk Fusionのサブスクリプションアプリになっています)や旧バージョンのKiCadの様な、プロジェクトファイルがあればインポート処理できるケースについてはまた別の記事でご紹介したいと思っています。
「PCBE」のデータをKiCadに取り込む
ここではPCBE等を想定して、ガーバーファイルのみ存在するデータをKiCadプロジェクトに取り込む方法についてお話していきたいと思います。
この作業ではKiCadの「ガーバービューワー」を主に使用します。
ガーバービューワーはそれ単体で使用でき、通常は作成されたツールの種類を問わずに試作製造用のガーバーファイルを読み込んで画面に表示、目視で確認できるツールです。
KiCadの管理画面から「ガーバービューワー」のアイコンをクリックして起動します。
PCBレイアウトエディターやフットプリントに似たレイアウトの画面が開きますので、「ファイル」メニューから読み込ませたいファイルの種類を選択してデータを読み込みます。
読み込みデータとして必須なのは「ガーバーデータ」で、DXF等の読み込みは行えません。
また、ドリルデータがあれば穴位置も表示されますので、データがあればガーバーデータと一緒に読み込みましょう。
ガーバーファイルを読み込むメニューは、画面右下のファイル種別を選択することでレイヤーファイルごとに検索できます。ただし、KiCad以外のファイルフォーマットではレイヤーごとの検索に対応できないこともありますので、基本は標準表示の「ガーバーファイル」すべてを選択できる状態にしておいた方が良いでしょう。
ファイル選択ウィンドウで複数のガーバーデータをまとめて選択して読み込むことも可能です。
PCBEのガーバーファイルでも同様の手順で読み込み可能ですが、各層の名称が異なることから、特に導体層は設計時に意図したレイヤーの順番にならないことがありますので注意して下さい。
必要なファイルを読み込むと、ビューワー画面にガーバーデータから描画された各レイヤーの図形が表示されます。
この画面では距離の測定、加工用Dコードの確認等を行えますが、基本はデータの確認のみとなり編集はできません。
ガーバーデータからPCBエディターファイルを作る
では「読み込んだガーバーデータをKiCadで編集したい」ときはどうすればよいのでしょうか?
KiCadで編集するためには、まず最初にPCBレイアウトデータに変換する必要があり、ガーバービューワーにはその機能が備わっています。
ここまでいきなり「ガーバービューワーを起動して~」と説明していますが、今回のテーマのようにガーバーデータのみ存在するプリント基板を編集したい場合、最初に編集用のプロジェクトファイルを作成してから作業を開始して下さい。
プロジェクトファイルを開いた状態でガーバービューワーを起動し、対象のガーバーデータとドリルデータを読み込みます。
読み込みができていることを確認したら「ファイル」-「PCBエディターへエクスポート」の順にクリックして変換メニューを開きます。
エクスポートするPCBレイアウトファイルの保存先を聞いてきます、ここでは任意の保存先を選択できます。今回は編集用に準備したプロジェクトファイルのフォルダ下にすでに用意されているPCBレイアウトファイルの名前で上書きしてしまいましょう。
ここでは、元のファイルは無編集で編集画面が空白の状態であることを前提にしています。
もし既存の設計データがすでに存在するプロジェクトファイル内にエクスポートする場合は、名前を変えて保存して下さい。
保存先、ファイル名称を指定したら、エクスポートするレイヤーを選択するウィンドウが開きます。
KiCad系の旧バージョンで作成されたガーバーデータの場合、高確率で自動割り当てが行われますが、出力レイヤーが異なる場合が時々ありますので念のために確認するようにしましょう。
今回のようにPCBE等のガーバーデータの場合、ファイル名の付け方が異なりますので、この画面で出力レイヤーを手動で割り当てて下さい。
「エクスポートできません」表示のままのレイヤーはファイル変換が行われません。出力する必要のないレイヤーは放置しても大丈夫ですが、導体層やマスク層のレイヤー等重要なものが変換されないことがないように項目をチェックして下さい。
レイヤーの割り当てが終わり、OKボタンを押すとPCBレイアウトファイルが作成されます。
PCBエディタ―でファイルを確認する
先のようにプロジェクトファイルと同じ名前のファイルを上書きした場合、管理画面から「PCBエディター」を起動することで自動的にファイルが読み込まれます。
別名で保存している場合は、管理画面左側の表示部から対象のファイルをダブルクリックしてエディターを開くことで読み込み、編集が可能です。
このように製造用ガーバーデータからPCBレイアウトエディターで編集するファイルに変換できますが、KiCadで回路から設計した場合と比べて注意点もありますので最後に確認しておきます。
1)ネットリスト及びラッツネストは生成できない
ガーバーデータから生成されたレイヤーデータはあくまでも「その層の図形データのみ」なので、フットプリントも情報が失われた図形に全て分解されています。そのため、通常の回路図から生成されるネットリスト、部品間の配線情報は含まれていませんので注意して下さい。
2)ドリルデータが無い場合、貫通ビアが変換できない
ガーバービューワーに読み込むデータにドリルデータが存在しなかった場合、部品を通すドリル穴が再現できません。また、両面基板や多層基板の層間を接続するビア穴の加工も再現できない場合があり、PCBエディターに変換したあとで穴開けやビア配置をやり直す必要があります。
今回紹介した「PCBE」のビア情報は「ホール出力」というメニューで生成する事が出来ます。ですが、現バージョンのKiCadではこのデータをドリルデータと認識して読み込む事は出来ませんので、ここだけはPCBエディタ―で手作業修整を行う必要があります。
昔の資産を活用するのは大変。でもゼロから設計するよりは・・・
ガーバービューワーを使って過去のプリント基板データを活用する手順について紹介しました。
これを行えばすぐ簡単にリバースエンジニアリングができる、という訳ではありませんが、ゼロから再設計する作業の膨大さに比べれば、データの有効活用で効率よく作業できる可能性が高まります。
積み上げて来た経験を更に活用できるよう、こういった活用方法も覚えておいて下さい。
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