どっちがどっち?
KiCadを使用して電子回路を設計する際、「ネットリスト」と「ラッツネスト」という2つのキーワードが登場します。それぞれ意味も使う所も異なる単語ですが、どっちがどっち?と混乱する人も時々見かけます。
今回はそれぞれの役割と活用方法について解説してみましょう。
ネットリスト (Netlist)とは
ネットリストとは、電子回路における部品間の接続情報をまとめたリストです。各部品のピン同士の接続関係を示すデータであり、部品名、ピン番号、接続先などの情報が含まれています。
KiCadをはじめとする電子回路設計ソフトウェア(EDA)では、まず回路図エディタ(KiCadの場合は「Eeschema」)を用いて回路図を作成し、次にその回路図の情報からネットリストを生成しています。
普段KiCadのみを使用している場合は、ネットリストの生成手順を踏まずにプリント基板エディタとのデータ連動が行えます。
他EDAとのデータ連携が必要な場合には、ネットリストの生成、入手が不可欠となります。
ネットリストの目的と役割
ネットリストは、回路図の情報を基に基板設計(PCB設計)で部品を正しく配置し、必要な接続を行うための基礎データとして利用されます。具体的には次のような役割を果たしています。
- 基板設計へのデータ連携
ネットリストは、回路図エディタとPCBエディタの間の橋渡しをする役割を持っています。PCBエディタにネットリストを読み込ませることで、回路図で定義された接続関係を基板設計に反映することができます。
- 部品と接続情報の管理
ネットリストは、基板上で必要な部品とその接続関係を明示的にリスト化するため、基板設計において接続漏れや誤接続を防ぐ助けになります。また、部品表(BOM)の生成や、シミュレーションツールでの解析にも重要なデータとして使用されます。
- 設計の修正・変更対応
設計途中で部品や接続に変更があった場合、回路図の更新と合わせて新しいネットリストを生成して基板設計にも変更を反映します。これにより、設計の一貫性を保つことができ、変更の追跡も容易になります。
ネットリストの生成と読み込み
KiCadで簡単な回路図を描いてみましょう。この回路図からネットリストを生成する手順は以下のようになります。
〇 回路図の作成
まず回路図エディタで回路図を作成し、全ての部品と接続を定義します。
〇 ネットリストの生成
回路図が完成したら、回路図エディタのメニューから「ネットリストの生成」を選択します。
〇 PCBエディタへの読み込み
特に他EDAで生成されたネットリストを使用する場合、PCBエディタ(KiCadの場合は「Pcbnew」)を開いて、エディター上の操作でネットリストを読み込みます。
正常に読み込みが終わると部品が基板エリアに表示され、それぞれのピン間で接続すべき部分が視覚的に確認できます。
先にも述べました通り、KiCadのプロジェクト内で設計作業を進める場合、ネットリストの生成は特に意識しなくても各エディタ間の連携が可能になっています。
特に、他EDAからネットリストを読み込む場合、電子部品のフットプリント情報がKiCadに連動できず、仮のシンボルにネットリストの情報だけが紐づけされた状態になりますので注意して下さい。
ラッツネスト (Ratsnest)とは
ラッツネストとは、PCBエディタ上で部品同士の接続関係を示すガイド等の通称です。
ネットリストで定義された接続関係を補助線で結び視覚的に表示したもので、補助線が部品の間を複雑に入り組んだ様子を「Rats(ネズミの)」「nest(巣)」と表現しています。
KiCadに限らず多くのEDAで、PCB設計作業において配線ルートを決定する際のサポートとして使用され、各部品の接続を視覚的に理解しやすくしています。
ラッツネストの目的と役割
ラッツネストは主に、基板設計において正確な配線を行うためのガイドとして役立ちます。具体的には以下の点で重要となります。
● 配線ルートの確認
ラッツネストは基板上の部品間を、最短で接続するルートを示します。これにより、設計者はどの部品がどのピンと接続されるべきかを一目で確認でき、接続ルートを検討する際の参考にすることができます。
● 最適な配線計画の支援
ラッツネストは基本的に「最短距離の接続」を表示しています。これによって基板上のレイアウトを最適化するための有効な情報として利用できます。例えば、電源ラインや高周波の信号ラインなど、配線長さに制約が生じる例や、短い配線での接続が必要な信号については、ラッツネストを参考に作業を進めると便利です。
● 未接続のチェック
全ての配線が完了した場合、その時点でラッツネストの補助線がすべてなくなっているはずです。もし残っている場合は、回路に未接続の部分があることを示しているため、視覚的に接続漏れを防ぐことが出来ます。但し、確認は視覚だけに頼らず、作業の最後には必ずデザインルールチェックを行いましょう。
ラッツネストの活用方法
ラッツネストを使ったPCB設計の、一連の流れは次のようになります:
〇 部品配置の確認
PCBエディタで部品を基板エリアに配置します。ラッツネストを表示すると、各部品間の接続関係が補助線で表示されます。
〇 配線の作成
ラッツネストを参考にしながら、基板上の導体層に配線を引いていきます。
自動配線ツールを使うことも可能ですが、特定のラインは手動で配置することが推奨されます。
〇 未接続の確認
配線が完了したら、ラッツネストが全て消えているかを確認します。消えていない場合は、接続漏れがないか再度チェックし、必要に応じて修正を行ってください。
ネットリストとラッツネストの連携
ネットリストとラッツネストを適切に活用することで、基板設計を行う上で以下のメリットがあります。
★ 設計の正確性向上
回路図で定義された接続情報が基板設計に反映され、誤配線や接続漏れのリスクが減少します。
★ 効率的な設計作業
ラッツネストによって配線ルートが補助線でガイドされるため、基板設計の効率が向上し、作業時間の短縮が可能になります。
★ 回路変更への対応
回路図の変更に伴いネットリストを適切に更新することで、基板設計にも適時反映させることができ、設計変更にも柔軟に対応できるようになります。
ネットリストとラッツネストは、KiCadを使用した回路設計と基板設計の両方において重要な役割を果たしています。ネットリストは回路図から基板設計に接続情報を伝達し、ラッツネストはその接続関係を視覚的にガイドすることで配線作業をサポートします。
両者の意味合いを理解し、上手に活用することで、正確かつより効率的な基板設計が可能になります。
コメントを残す