よくある質問「KiCADって?」

今回の記事では、KiCADに関してよくある質問や疑問について、3つをピックアップしてご紹介します。

質問:「KiCAD」はなんて読むの?

「KiCAD」の読み方については、公式では「キキャド」と呼ばれています。

ただし、この読み方については意見が分かれています。

キカドでしょ?」「ケーアイキャドじゃないの?」

などと、さまざまな呼び方がなされているものの、正誤に関するコメントは公式には一切行われていません。

呼び方が多数存在する背景については、KiCADの開発体制である、世界中に開発を支援するプログラマーやコミュニティが存在している点も多少は関係していると思います。

同じ英語の発音であっても、米国とイギリスなど欧州では発音のクセが異なるだけでなく、聞き手側の誤認なども含めると「CAD→カド」に聞こえる可能性も十分に考えられます。

また、エンジニアに限らず、はじめて見る単語で読み方が分からない場合、「アルファベットのまま読む」という呼び方をする人はかなり多いと思います。

しかし、さすがに「CAD=キャド」という呼び方はかなり一般化しているため、先頭のKiのみをケーアイと読み、「ケーアイキャド」と呼ぶことについては、特段不自然ではありません。

質問:「KiCADは誰が作ったの?」

続いては、「KiCADは誰が作ったの?」という質問です。

KiCADと呼ばれることになったEDAツールは、フランスのグルノーブル大学(現在のグルノーブル・アルプ大学)に勤務していたJean-Pierre Charras氏が主導して開発されました。

1992年に最初のバージョンが発表されてから現在に至るまで、ボランティアや寄付を募りながら開発が進められています。

当初は膨大なライブラリの管理をオンライン環境に依存する形の設計開発ツールとして作られていましたが、現在はライブラリも含めて個々のPCにインストールされる独立したアプリケーションとして提供されています。

開発者本人の執筆による、リファレンスマニュアルも出版されています。

2013年には、欧州原子核研究機構(CERN)が内部の研究開発用ツールにKiCADを採用し、その開発にも協力する姿勢を示しました。それにより、開発コミュニティが世界中に拡大して多言語・多OS対応のマルチプラットフォームアプリケーションとして普及しています。

ちなみに、CERNでは専任で研究設備の開発に従事する電子機器エンジニアを募集しているそうです。もちろん、開発環境はKiCADです。

質問:「KiCADって使いづらくないですか?」

最後の質問は、「KiCADって使いづらくないですか?」です。

KiCADは回路作図からPCBレイアウト設計まで、電子回路設計の全プロセスにおいて使用できる統合環境です。

それを踏まえたうえでの結論から述べると、EDAとしてのKiCADはとても使いやすいツールです。

最近流行している3D-CADやイラストソフトなどは、予備知識がない人であってもある程度の操作ができるように、とてもわかりやすいチュートリアルが用意されています。

ただし、これらのチュートリアルの適応範囲はツールの使い方についてのみであり、ツールを用いてどのような立体データやイラストを創作するかについては、本人のスキルや想像力に委ねられています。

これらと比べると、KiCADではツールの使い方よりも先に、「電子回路の知識」や「電子基板設計のフロー」への理解があること前提にチュートリアルや操作フローが設計されている場面が多いという特徴があります。

そのため、「いきなり使おうとする人」にとっては、どこから手をつければいいのかわからないという困りが、「使いづらい」という表現に込められているようにもうかがえます。

また、回路CADとして使う場合においても、

「回路図を描きたいだけ」

「簡単なプリント基板(PWB)を作りたいだけ」

といった、製造フローの中の一部分のみを集中的に行いたい場合には、KiCADの統合環境としてのデータ連動機能が、かえって作業の邪魔に感じられてしまうことがあるようです。

KiCADは誕生初期より、回路図作図からプリント基板製造用データの作成までの各ステップを一貫して設計作業することを前提に作られ、開発が続けられてきました。著者自身も最新のVer.6シリーズにおいては、統合環境として一括使用をより重視した操作性にチューニングされている傾向がを感じることがあります。

「これひとつで電子回路基板の開発ができる」統合環境としての完成度については、KiCADは非常に使いやすい環境へと日々進化を続けています。しかし、その反面部分的な利用を希望する人にとって、「手がつけられない」ツールに見えてしまうといったケースも増えているのかもしれません。

しかし、そのような方々にとってもKiCADをスムーズに使っていただけるように、今後も本ブログではセミナーや解説記事といった情報発信を続けることでお力になれたらと思っています。これからも更新のチェックとご愛読をよろしくお願いいたします!

ABOUT KiCAD MASTER

KiCADの達人
KiCAD歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCADの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。