プリント基板の面付け処理

今回はちょっとした処理の解説です。

プリント基板を設計して一度に多くの基板を製作する際、コストを削減するために1枚の板材にまとめて製造することがあります。

複数のプリント基板を1枚の板材にまとめる方法として「面付け」があります。この方法は製造の効率を高め、コストを削減するために多くの工場で用いられています。本記事では、KiCadで設計したプリント基板のデータに対して、いくつかのパターンにおける面付け処理のやり方をご紹介します。

「面付け処理」とは

1)面付け処理の目的

最大の目的は製造機械の効率アップによるコスト削減です。一般的に小さい基板を一枚ずつ製造するよりも複数種をまとめて1枚の板材で製造できるようにすれば、自動化設備を効率的に運用できます。

これにより材料の無駄や部品実装に要する工数を削減でき、製造ラインの効率向上、つまりは製造コストの削減につながります。ただし、なんでも面付すれば良いという訳でもなく、多くの場合、自動化設備はある程度大きな材料パネルを扱う前提で設計されているため、コスト削減の効果を最大化するためには、製造業者が公開している製造仕様をよく確認し、それに合わせたデータ編集を行う必要があります。

2)面付け加工指示の方法

面付け処理の方法は、基板の形状や製造条件に応じて次のような方法があります。

「Vカット」

 基板を分割しやすいようにV字の溝を板材に入れます。直線で構成される四角形状の基板に適した方法です。分割後の基板エッジを滑らかにすることが可能で、分割作業が簡単で素早く処理できることが主なメリットになります。

ただし、複雑な形状の基板には次に紹介するスリット加工などと併用する必要があり、分割作業の折り曲げ時に加える力によって実装部品が破損する可能性があるといった注意点もあることから、導体層のパターンや実装部品から充分にクリアランスを確保した所にVカット線を配置する必要があります。

そのため、基板の小型化に対しての制約となることがあり、小型高密度実装基板の周囲をVカット処理する際には充分に注意して設計を行う必要があります。

「スリット(ミシン目)」

分割箇所に穴(スリット)を一定間隔で開ける加工方法です。

スリットの途中を一部分だけつながった状態で加工し、複雑な形状や入り組んだ配置の面付けにも対応できます。スリット幅や穴の間隔などは製造業者ごとに指定されていることが多いため、事前に確認しておくことを推奨します。

基板の形状に対して適用の自由度が高い反面、分割するために折り曲げた部位の断面が荒くなる場合がありますので注意しましょう。

面付け処理はプリント基板の量産において欠かせない技術であり、基板のデザインから製造工程までを効率化する重要な要素となっています。

実際の製造用データにおいては、面付けした後に製造設備に固定するためのいわゆる「捨て基板」と呼ばれる余白部分や、自動実装のための認識マークを配置するといった編集が必要になりますが、今回はその手前の段階として、基板データを並べる処理手順についてに絞って進めていきたいと思います。

「同じ基板を複数枚面付けする」

まず一つ目の方法としては、同じ基板データを複数枚配置する手順になります。

PCBエディターで基板の設計が終わったら「配列」を利用して縦横に並んだコピーを作成します。

ここで部品のレイアウト設計を行った基板ファイルに配列処理を実行してしまうと、あとで追加や変更が発生した時の作業が非常に煩雑になります。そのため、回路編集用の基板ファイルをメインとして、面付け処理用の基板ファイルを「ファイル」-「コピーを保存」メニューを使用して作っておきましょう。

一つ注意点があり、「コピーを保存」メニューを実行した後でも、PCBエディターが開いているのは最初に読み込んだ方の基板ファイルのままです。

面付け処理用ファイルをコピーで保存したら一度エディターを閉じ、管理画面の左側に表示されているコピーしたファイルをダブルクリックして開き直してください。

基板ファイルを開いたら、配列作成時に必要となる基板の寸法を確認しておきます。

その後、基板全体を選択して右クリックからサブメニューを開きます。

「選択対象から作成」-「配列を作成」の順に選択して左クリックするとサブメニューが開きます。ここでは標準的なグリッド配列を見ていきます。

上から順に「グリッド行列サイズ」メニューでは縦横に配置する数を指定します。

次に「アイテムの間隔」で、水平方向と垂直方向の複製する位置を指定します。

隣同士くっついた状態で配置したいのであれば、先ほど確認した基板の寸法値を入れれば大丈夫ですが、間に捨て基板を入れてクリアランスを確保したい場合は、寸法値+クリアランス幅の値を入力して下さい。

なお、このメニュー下段にある「グリッド間隔の調整」というオフセット値の項目は、1個複製する度に設定した間隔+オフセット値が加わった配置になります。通常の縦横に整った配列をする場合は「オフセット値=0」にしておきましょう。

「切り返しの設定」も同様に、1よりも大きい値を設定すると、入力された値の回数分だけ配列がずれていき、回数を終えると基準の位置に切り返す配置を実行します。

Vカットによる面付を行う場合は使用しないメニューになりますので、ここも切り返し回数=1のままにしておきましょう。

配列設定を行いOKボタンを押すと、設定された値に基づいてデータの複製配置が実行されます。

この時、複製されたデータにもラッツネストの補助線が発生して非常に見づらくなるので、配列処理を実施した後はラッツネストを非表示にしておきます。

あとは余白部分の追加やVカット線の指示を加えていけば、面付処理した基板データができます。

「異なるプロジェクトの基板を面付けする」

同じ基板の複数面付けであれば配列メニューの実行で良いのですが、複数のプロジェクトで設計した基板を1枚の板材で手配したい場合もあります。特に試作や実験用、1個の機器に実装する回路を1枚の板材で製造したいといったケースがこれに該当します。

この場合は、特定のプロジェクトファイルの中に面付け用基板ファイルを作るのではなく、できれば面付け処理専用プロジェクトを作成してしまった方が管理が楽だと思いますのでお勧めしています。

面付け用プロジェクトを作成したら、PCBエディターを開きます。新規のプロジェクトなのでまっさらな状態のファイルが開かれます。「ファイル」-「基板を追加」メニューを選択して、製造したいプロジェクトの基板ファイルを読み込みます。

複数のプロジェクトで同じ名称のネットリストが使用されていた場合、ラッツネストが自動的に接続されてしまいます。プリント基板の規模によっては、画面がかなり見づらくなるので、ラッツネストは非表示設定にしておくことを推奨します。

ここでちょっとした小ワザですが、各プロジェクトから基板ファイルを読み込んだら、まず最初にそれぞれを「グループ化」しておきます。

プロジェクト毎にグループ化することで、レイアウト編集の作業中に設計データが崩れたり、一部分だけ削除されてしまうといったトラブルを回避できます。

必要なデータを全部読み込んだら、あとは余白用の捨て基板を追加するなど通常の編集と同様の手順でレイアウト編集を行ってください。

「製造サービスの面付けメニューを利用する」

最後に身もふたもない話で恐縮ですが

「面付け処理してコストを抑えたいけど、どう配置したら一番効果的なのか判らないなあ・・・」

と考え込んでしまう場合は、いっそのこと製造業者が提供している面付けサービスを申し込んでしまうのも選択肢だと思います。

最初に述べたように、面付け処理は製造工程の効率化によるトータルのコスト削減が主な目的です。試作などの少数製造の場合、こちらで試行錯誤したレイアウト配置が、かえって製造工数の増加や使用できる設備に制約を生じさせる原因になることもあります。

若干の設計費用増加は避けられませんが、業者の保有する設備に適した配置はその業者の技術者が一番よく知っているので、最も効率の良い配置に編集してもらえることが期待できます。

「どうせ高くつくだけだし・・・」と思わずに、一度製造業者のWEB見積りや問い合わせを実施してみて、内容をきちんと比較確認してみるのは決して悪いことではないと思います。

実際の費用感を確認してみると「この位だったら依頼しよう」というケースも意外とあるものですし、「こんなにかかるなら自分で頑張って設計してみる!」という意欲の源になったりするのもまた一つの結果ということで。

多種多様な電子回路の設計、製造が実現できるよう、今後も色々な手法を学んでいきましょう。

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ABOUT US
KiCadの達人
KiCad歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCadの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。