図形・画像からプリント基板外形を作る

今回はイメージコンバーターを利用して、画像データから特殊な形状をしたプリント基板の外形データを作る方法をご紹介します。

尚、今回の方法はちょっとした小ネタとして「こういう使い方もある」一例としてご覧頂ければ幸いです。

単純な形状をした電子回路からデザイン性の高いDIY基板へ

通常、プリント基板は何かしらの筐体の内部に電子回路を組み込むために製造されます。

そのため、その外形は四角形や円形、コネクタ等の取り回しをしやすくする目的で一部変形した形状をしていることはあるものの、概ね単純な形状をしていることが大半です。

ですが、最近ではDIYで気軽にプリント基板を設計、製作できるようになったことから、プリント基板自体を「見せる目的」でさまざまな形状にデザインする例も多くみられるようになりました。

KiCadを使っているユーザーの中にも、こういったデザイン性の高い基板を作りたい、または既に作っているという方がいると思います。

PCBエディタでは複雑な外形描画は苦手

KiCadのプリント基板エディターでは、基板外形レイヤーに直線、円弧、矩形、円、そして多角形を描けるポリゴン等を駆使して外形線を描画できます。ただし、基本的にKiCadで描く線のデータは円弧を除くすべてが多角形で描かれ、その位置関係は画面上のグリッド間隔に制約を受けます。

この様な制約から、プリント基板の外形に複雑な形状を描きたい場合、通常であれば2D-CAD、またはillustratorなどグラフィックソフトで線画を描き、その線画からCAD用データであるDXFファイルを生成してKiCadに読み込ませる方式が一般的な手法として紹介されています。

KiCadの公式サイトでは、過去にKiCadのインストール時に「FreeCAD」の使用が推奨されたことがありましたが、さまざまな描画ツールが提供されるようになった現在のバージョンでは、特に特定のCADソフトを推奨することもなくなったようです。

筆者も普段は、2D-CADを使って形状データを作りましょう、と推奨するのですが、色々な理由でCAD以外の方法は無いか?と聞かれることがあります。

使うソフトは簡単、手順は少々手間・・・?

少々前置きが長くなりましたがここからが本題です。

今回は「門松風プリント基板」を作るためのデータを用意します。

もちろんKiCadは使用しますが、それ以外はWindowsパソコンに特殊なソフトウェアを追加しなくてもできる方法でプリント基板の外形データを作っていきたいと思います。

最初に作りたい形状の図、イラストを描きます。ここでは検索して来たイラスト画像を参考に、Officeソフトの図形描画機能を利用して門松風の図形を描いています。

手持ちのイラストがある場合はそのまま用いてもよいのですが、どちらの場合でも形状が決まったらペイントツール等を使用して「黒など単色」で塗り潰した画像データを用意して下さい。

画像データは白黒ビットマップを推奨します。JPEG等でも単色であれば対応できますが、後の処理で輪郭がにじんだ結果、細部がゆがむ場合があります。

シルクスクリーン用の画像データであれば多少にじんでいても問題はありませんが、今回の処理を行う場合は可能な限りはっきりとした輪郭を確保したいので、モノクロビットマップの作成を推奨しています。

画像ファイルの用意ができたらKiCadのイメージコンバーターを起動して、作成したファイルを読み込みます。

出力サイズの寸法を確認又は修整し、図形用のPCBレイヤーの選択を「描画ユーザーレイヤー」に、出力フォーマットを「フットプリント」に選択してからファイルをエクスポートします。

イメージコンバーターでの作業はここまでとなるので、フットプリントエディターを起動して次の手順に移ります。

外形データへの変換はフットプリントエディターで

フットプリントエディターでは、自作のフットプリントが保存できるライブラリーの用意をしておいて下さい。

「ファイル」-「新規ライブラリ」の順にクリックして任意の場所にライブラリデータを作っておきます。

用意ができたら「ファイル」-「インポート」-「フットプリント」の順にクリックし、先ほどイメージコンバーターで保存したフットプリントファイルを読み込みます。

読み込まれた画像データをクリックしてみると、大量の点データの集合体になっているのが分かります。

ここからの作業を行う前に、画面右側のレイヤーの選択を「Edge.Cuts」の、基板外形レイヤーに切り替えます。その後に図形を選択し、続けて右クリックでサブメニューを開いてください。

「選択対象から作成」-「選択対象からポリゴンを作成」の順にクリックして、サブウィンドウを呼び出します。

変換設定のウィンドウでは「境界の包絡を作成する」を選択し、ギャップは0mm、線幅は任意の太さを入力します。KiCadの標準設定では、基板外形レイヤーの線幅は0.15mmとなっているので、同様の0.15mmを入力しても良いでしょう。

数値を入力してOKボタンを押すと、基板外形の線画が、ポリゴン形状として生成されます。この状態で名前を付けて保存し、「基板外形の部品」としてライブラリに登録します。

登録が終わったら、PCBエディターの「フットプリントを追加」メニューを使用して保存した外形パーツを呼び出し、編集に利用可能になります。

応用次第で色々な物が作れるが、注意点も

今回の方法を利用すると、例えば子供が描いた絵や、複雑な曲線を描いたプリント基板等の製作が可能になります。

ただし、先にも述べた通り、複雑な形状のデータ化が可能になる反面、どうしても図形はポリゴンの多角形に変換されてしまいます。また、基板を製造する際には、外形カットを行うルーターの直径によって角の再現性に制約を受けるという点も注意が必要となります。

例えば地図の様な非常に複雑な地形の形状もデータ化自体は可能ですが、プリント基板として製造する場合、そのまま再現しようとすると精密カットの工程が必要になる=製造コストが跳ね上がることを許容するか、外形の形状を単純化する作業のいずれかが必要になります。

WEB経由で簡単にプリント基板がオーダーできる各社のサービスの場合、プリント基板の加工費用は大体そのサイズだけで計算されています。形状の複雑さについてはあまり考慮されておらず、多くの場合、発注メニューで設定、選択した項目以外はメーカーの方で都合よく判断され「加工できるなりに単純化された」又は「データの通り動かした結果残った形状」で製造されることがほとんどです。

複雑なデザイン基板を設計してWEB発注したら

「期待した形状になっていなかった」

「一部分欠落していた」

というトラブルも時々あります。

是非色々なツールを組み合わせて面白い形状のプリント基板の作成にも挑戦して頂きたいと思いますが、製造工程を意識したアレンジを、あらかじめ加えておくことを忘れないようにしてください。

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ABOUT US
KiCadの達人
KiCad歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCadの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。