EDAツール比較:Quadceptの場合

本ブログでは、これまでKiCADの使い方やさまざまな情報を提供してきましたが、

KiCADの使い勝手は、ほかの回路・基板CADと比べてどうなの?」

という疑問を持つ方もいらっしゃることでしょう。

前回の記事では、国内で無償利用が可能な基板CAD「CADLUS X」についてご紹介しながら、KiCADとの差を比較しました。

続編である今回の記事では、「Quadcept」をご紹介し、KiCADとの比較を行っていきます。

国産EDAとして勢いのある「Quadcept」

「Quadcept」を提供しているQuadcept(株)は、大阪に拠点を構えるソフトウェア会社です。

回路CADとしての「Quadcept」をご存じない場合でも、他社EDAのネットリストやプロジェクトファイルのデータコンバートサービスなどを通じ、企業名を耳にしたことがある方は少なくないと思います。

EDAとしての「Quadcept」は、「Circuit Designer」「PCB Designer」に大別され、豊富なチュートリアルとオンラインマニュアルにより、短期間で操作の習得ができるようになっています。

シンボル&フットプリントのライブラリについても、大手部品販売業者との連携により、豊富なライブラリを初期から利用することができます。

また、KiCADに代表されるフリーウェアEDAは、何か困ったことがあった場合でも、オンラインのコミュニティやネット上の情報から自分で解決策を見つけ出す形となります。

この点において、「Quadcept」では、提供元からのサポートを受けられる体制が整えられているため、独学でプリント基板設計を学ぼうとする際には魅力的であるといえます。

「初期費用0円」とは言うものの・・・

ここまでの説明を踏まえると、「Quadceptって良いソフトウェアじゃないか、さっそくダウンロードして使ってみよう」となるかもしれません。

でもちょっと待ってください。ここから大事な話をします。

ネット上のバナー広告でもよく見かける、

「初期導入費、保守費用0円!」

「無料で試してみる」

といったキーワードから、から「Quadceptは無料で使えるのでは?」と思っている方をたびたび見かけます。

その答え合わせとして、ひとまずは公式WEBサイトへ行き、「無料でCADを使ってみる」ボタンをクリックしてみましょう。

すると、いわゆる「無料」で利用できる範囲は、「アカウントを登録して、ソフトウェアをダウンロード&インストールして動かしてみる」部分までとなっています。

「有償ライセンスを購入しない状態」=「無償利用状態」では、

  • 基板設計は4層基板まで
  • レイアウトできるパッド数も100パッドまで

と制限されています。

「ホビー用途にしか使わないし、そのくらいあればそんなに困らないのではないか」と思うかもしれません。

では、KiCADで設計した基本サイズのArduinoボードを例に挙げてみてみましょう。

必要最低限の構成だけに絞ったこのプリント基板であってもすでに120パッドを越えています。

半導体ICやマイコンのGPIOを多用する現代の回路設計において、100パッドまでの制約下では、CADのトレーニング用としての使い方しかできないと考えた方がよさそうです。

Quadceptは有償EDAで、無償利用可能範囲は体験版と考えよう

実際、Quadceptの規約ではライセンスなしバージョンの商用利用は禁止されており、商用の場合はライセンス購入が必須と定められています。

※念のため「商用利用」の定義については、一般的に「利用する個人、法人が自らの利益を得る目的をもって利用すること」とされていますから、副業やフリーランスであってもトレーニングを終えたら速やかに商用ライセンスの購入を行う必要があります。

このライセンスにおいては、月ごとの購入や停止が可能なサブスクリプション形式となっています。

回路設計CAD、PCB設計CADの2つを最短期間、1ヶ月だけ使用する場合の費用は¥13,300.-(税込¥14,630.-)が必要になります。

上記から、「Quadcept」とは複数の有償CADソフトの総称といえます。

Quadceptは、有償CADとしては柔軟なサポート環境が強み

「Quadcept」は、各種ライブラリの規模や外部連携の機能性において、現バージョンのKiCADと比較し大きく優れているという点もあまりなく、フリーウェアで商用利用OKのKiCADとは根本的に土俵が違うため単純な比較をするのは避けたいと思います。

その上で、「Quadcept」のメリットについては、まず有償EDAの中では「サブスクリプション型」という採用例の少ない提供スタイルを採っている上に、大手ベンダーのEDAと比べて価格も控えめであることが挙げられます。

「Quadcept」では、有償トレーニングの実施から無償セミナーまで、規模や目的に合わせて頻繁に開催される手厚いサポート体制が整えられています。

企業内プロジェクトチームによる活用や学校法人の教育現場などの利用について、とても導入しやすいソフトウェアであるといえるでしょう。

KiCADも同様に、世界中のプロジェクトチームでの活用や授業の現場でも活躍していますが、組織内や複数のメンバーで共有できる開発環境を構築するには、利用者側に相応の環境構築スキルが求められます。

この点において、「Quadcept」の運営体制はEDAの使い方だけにとどまらず、用途に応じた環境構築に伴う悩みや相談などについてもサポートしてもらえるスタッフが「国内にいる」ことが何よりのアドバンテージとなっています。

昨今では有償/無償EDAで設計可能な回路基板の差はなくなりつつある

KiCADは、「とりあえずダウンロードして、独学で学びながら仕事も都度進めていく」ことが可能なEDA統合環境の入手を実現できます。

それに対し「Quadcept」は、「まずセミナーやトレーニングをしっかり受けて使用方法を学び、仕事で使用する時や必要な月だけライセンス購入/解除を切り替えて使用する高機能CADソフトウェア群」を手元に置いておくといったイメージです。

両者には設計できる基板の差はほとんどありませんが、使用環境に対していつでもサポートが受けられるか、自身で問題解決まで調べることにストレスを感じないかという点において、有償/無償の違いソフトウェアの評価にもつながっているのだろうと思います。

筆者としては、KiCADにもQuadcept並のサポート体制またはコミュニティがあったら爆発的に広まるのに惜しい、というのが感想です

回路、プリント基板設計まで一括して請け負う仕事をされている人であれば、「Quadcept」の年間ライセンスであっても、非常にコストパフォーマンスに優れた価格設定になっていると思います。

まずは一度、セミナーに参加してソフトウェアに触ってみることをオススメます。

ABOUT KiCAD MASTER

KiCADの達人
KiCAD歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCADの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。