今回はKiCad Ver.7シリーズの「プリント基板エディター」の準備、設定についての続きとなります。
「基板の設定」の前半については別記事をご覧ください。
作図に必要な「線」の設定
前回の記事では基板製造時の構成を登録するスタックアップ設定について説明しました。
ここからは続けて設定メニューの「テキストと図形」の項目に移ります。
最初に表示される画面では、新規グラフィックアイテムの線幅その他の設定と、寸法線の設定を行うことができます。
ここで設定できる「グラフィックアイテム」とは、導体レイヤーの配線以外の線および図形を描く際の設定です。
設定値は作業時に標準で使用する値となります。個別に変更したい場合は描画後のプロパティ画面から変更できます。
基板製造業者の一部では、ごくまれにではありますがグラフィックアイテムの設定値を指定している場合があります。そういった場合はこのメニューを変更するか、必要な部位のみプロパティから変更する等で対応しましょう。
「寸法の桁数は必要な精度の分だけ」が基本
画面の下段では寸法線オブジェクトの設定ができます。ここで特に設定しておきたいのは「精度」の項目です。
標準設定では小数点以下4桁まで表示する設定になっています。
電子部品の精密実装を行う上では必要な桁数なのですが、おそらく電子基板設計を行う人の中で一番多い使い方は、寸法表記を基板外形やコネクタ位置の指定に用いる用途だと思います。
外部コネクタの実装位置には筐体まで含めた組立誤差から充分な余裕を持たせて配置するのが一般的ですし、製造業者の多くはプリント基板の外形カット時の寸法精度に±0.2mm程度を必要としています。
このような目的では4桁の精度は製造工程への指示としては明らかに過剰指示でありトラブルの元となります。寸法の表示桁数は用途に適した設定に変更することをお勧めします。
また、設定欄の下に「後方ゼロ省略」のチェックボックスがあります。
このチェックを入れることで、表示桁数の後方がゼロになったらそれ以降は表示させないことが可能です。
ただし、この設定は表示した寸法ごとに桁数がバラバラになる場合があり、製図学の面から見るとかえって読みづらい図面になるのであまりお勧めできません。
少し注意が必要な「破線設定」
次の「フォーマット」画面では、破線のパターンを設定できます。この項目は破線、点線、一点/二点鎖線に適用され、実線長と線間ギャップ長を数値で設定します。なお、ここで入力する値は実際の長さ(mm)ではなくそれぞれの割合だと考えて下さい。設定を変更する場合はデフォルト値を参考に調整しましょう。
上級者?向け「テキスト変数」
次の項目「テキスト変数」では、各種スクリプトとの併用で機能する変数を追加できます。
正直、EDAツールとして普通に使用する範囲ではテキスト変数を使うことは、ほぼありません。筆者もこれまで長年使ってきたKiCadのどのバージョンでもテキスト変数を使ったことが無いので、これについてはどんな利用方法があるのか?について改めて調べておきたいと思います。
導体配線の設定はここから「デザインルール」
次の項目は「デザインルール」です。
ここでは基板レイアウトの核となる、配線に関する各種設定を変更できます。
注意事項は「各項目の意味が分からない場合は設定を変更しない」です。
各種の設定値は過去の製造データ等が反映されて最も汎用性の高い値に調整されています。特に配線や各部の「クリアランス」値は回路のショートや製造時のトラブルを引き起こす原因となりますので、デフォルト値以下への変更はお勧めしません。
筆者が各項目を見ていて気になる点は「導体から基板端クリアランス」の標準値0.075mmが少し狭すぎると感じるくらいです。「ゾーン塗りつぶし方法」の設定をプロジェクトごとに切り替える必要がある場合以外は、デフォルト値のままで使用しても大半は問題なく設計できています。
配線やビアの個別設定を用意する「定義済のサイズ」
「定義済みのサイズ」欄は、配線やビアについて先の「制約」画面で設定される以外のサイズを登録する画面です。
ここでデフォルト値以外に使用するサイズを登録しておくと、設計作業中の寸法変更を簡単に行えます。
ネットデータごとに一括設定「ネットクラス」
次の「ネットクラス」では、配線やビアを個別に設定するのではなく、電源線や特定の信号線といった用途ごとに「クラス」を設定し、回路データ内のネットに一括割り当てできます。
まず、上段の欄で設定のセット「ネットクラス」を登録します。標準設定(Default)は変更せずそのままにしておくことを推奨します。必要なネットクラスを登録したら、下段の欄で回路図データ内のネットにネットクラスを割り当て可能になります。
「+」ボタンを押してパターン欄にネット名を入力、該当する回路図データ内のネット名が画面右側に表示されるので選択して割り当てを登録していきます。
DRCの機能追加が可能な「カスタムルール」
「カスタムルール」項目では、DRC実施時の標準ルールに独自のチェック処理を追加できます。最後の項目「違反の深刻度」設定を併用することで、通常よりもより細部に注視したデザインチェックが可能になります。
カスタムルールを追加するための構文作成には、ある程度のプログラミングスキルが必要なので、これについても機会をみてDRC全体の解説と併せて改めてまとめてみたいと思います。
「違反の深刻度」については、標準設定の段階でエラーが「製造時に問題となる可能性がある項目」、警告が「性能に支障は無いが注意すべき項目」、それ以外が「無視」という基準で割り振られています。
個別に判定基準を変更したい項目がある場合は設定を変更して下さい。
効率よい設計の為にも準備は大切です。
2回の記事に分けて設定項目の説明をしてきました。KiCad標準設定のまま設計を始めて、都度設定を変更する方法でもプリント基板の設計は行えますが、これらの設定を最初に行うことでより的確に効率よく設計作業を進めることができるようになります。
慣れてしまえば最初の10分で準備できる内容ですので、新規プロジェクト作成時は基板設定を最初に行う習慣づけを是非して頂ければと思います。
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