前回はKiCADにも利用できるLIBRARY LOARDERの紹介をしましたが、回路設計を進めていく上ではどれだけネットを探しても見つからない回路記号がある場合があります。
そんな時に使用する「シンボルエディター」の使い方についてご紹介します。
エディターの説明に入る前に、まず電子回路を設計する時に必要な「シンボル」「フットプリント」「パッケージ」についてお話ししたいと思います。
電子部品の「シンボル」「フットプリント」「パッケージ」
電子部品は基本的にいくつもの情報が組み合わさって、はじめて一つの部品を正確に表す事が出来ます。
- 「回路記号(シンボル)」
その部品がどの様な機能を有しているのか?を図や簡単な文字表記で分かる様にした略図をシンボルと呼びます。KiCADの中ではコンポーネントと呼ぶこともあります。

上の画像はArduinoマイコンでおなじみの、ATMega328Pのシンボル例になります。
- 「接続端子形状(フットプリント)」
シンボルで選定した電子部品、半導体部品をプリント基板上に接続する為の端子形状を示した形状データをフットプリントと呼びます。
この時点でシンボルの信号線の数とフットプリントの接続端子の数は基本的に同じ(例外的な使い方もあります)ものを選定する必要があります。

このフットプリントの形状には国際的な規格が存在しており、使いたい部品の仕様を調べるとその形状の規格名が記されている事が多いです。
- 「部品の物理的形状(パッケージ)」
フットプリントを選択する際に、対応した部品そのものの形状も大体決まってきます。この部品の形状をパッケージと呼び、電子部品毎に様々な規格が定められています。
特に半導体ICは用途や物理的な特性などに応じて非常に多くの規格が存在しており、ほとんどの製品はこの規格のどれかに従った形状をしています。


電子回路を設計する際に選択する電子部品はこの様に「シンボル」→「フットプリント」→「パッケージ」の順に選定してやっと実際に製作できる構成になります。
但し、音響機器用ICやモーター等の制御IC等、この規格に基本的には合わせた形をしていながらも微妙に寸法が違う「メーカー独自パッケージ」が存在する事もありますので、特殊な電子部品を使う際は必ずメーカーが提供しているデータシートに目を通しましょう。
また、少々蛇足ではありますが、基本的な半導体ICは1番ピンの位置を示すマーカーがモールドや印刷されていて、このマーカー位置のある角を1番ピンとして反時計回りにピン番号が増えていく様に設計されています。回路の評価や調査をする時には実物のピン番号を数える事がありますので覚えておくと良いでしょう。

ここまでのお話を踏まえて、回路記号を自作する際に注意する点を纏めておきます。
注1:シンボルとフットプリントのピン番号は必ず同じ番号、構成にする
注2:現実に存在しないシンボルを作らない、電子部品のデータシートは必ず目を通す
注3:既存のシンボルが存在していれば、特別の理由が無い限りそちらを優先使用する
注4:独自作図のシンボルは必ず固有名を付け、標準ライブラリを上書きしない
エディターを起動してシンボルを作る
下の画像は「ATMega328P-AU」のKiCADコンポーネントになります。
基本的に左右二つとも同じマイコンICを示すシンボルになっていますが、目的の違いから描き方が異なっています。

向かって右側がKiCAD標準ライブラリに登録されているシンボルで、データシートなどでも良く見かけるピン配置で描かれています。電子工学を学んでいる人であれば見慣れた形で「見やすい」と感じる人も少なくはないと思いますが、初めて電子回路を設計する人の場合「ピン番号の順番がめちゃくちゃで分かり難い」と感じる事があります。
更に、ATMegaマイコンチップはあくまでも汎用マイコンとして設計されている為、ピン番号ごとの信号の情報はメーカー設計時の基本的な内容しか記載されていません。
例えばATMegaマイコンにArduinoのブートローダーを書き込んで使う前提で専用のシンボルを作りたい、といった場合
「あらかじめピン番号に信号名を書き込んでおきたい」
「ピンの位置がすぐわかる様にしたい」
という目的の為にエディターで書き直したシンボルが上の画像、向かって左側のシンボルになります。
この様に、用途を限定したシンボルにカスタマイズする、といった手法でもエディターを使用する事が可能です。
これでArduino組込回路を設計する際には信号名が記載されていて判り易くはなりましたが、汎用マイコンチップのシンボルとしては情報過多でむしろ逆に解り難くなっています様にも見えます。
画像ではピン番号がシンボルの左右とも上から下に番号が進んでいて、厳密な意味ではこれも実際のICとも順番が異なる描かれ方をしている為、少々注意が必要になるかも知れません。
ですが、回路図の段階で形状を正確に描く用途はある程度限定されます、回路図としては「簡潔に」「判り易く」描く事を優先してシンボルも作る様にして欲しいと思います。
さて、シンボルにまつわる話でずいぶん前置きが長くなりましたが、いよいよシンボルエディターの使い方を説明したいと思います。
シンボルエディターによる作図の流れ
基本的な例としてシンボルエディターを起動した後、以下の流れで新しいシンボルを作図していきます。
- 登録するライブラリを確認する
- シンボル作図を開始する
- 単位を設定、確認する
- シンボル名称とリファレンス記号を配置する
- ピンを配置する
- ボディを作図する
- 部品の原点を確認する(アンカーを利用する)
それでは、シンボルエディターを起動しましょう。
登録するライブラリを確認する

シンボルエディターを起動したら、最初に作図するシンボルを登録するライブラリの確認をします。

KiCADのシンボルは、インストール直後に登録されている標準ライブラリや、ダウンロードして追加したライブラリ等に保存されています。
これらの既存ライブラリに追加していく事も可能ですが、後々管理や共有がしやすくなる様に、独自に作図するシンボルは独自の新規ライブラリを用意してそこに蓄積していく事をお勧めします。
新しくライブラリを作成する場合は「ファイル」-「新規ライブラリ」の順に選択し、任意の場所に名前を決めたライブラリを作成します。次回以降はこのライブラリを選択して描いたシンボルを追加していけば回路図エディターで使用する事が可能になります。

シンボル作図を開始する
ライブラリの準備が出来たら、シンボルの作図を開始しましょう。
「ファイル」-「新規シンボル」の順にクリックすると、登録するライブラリを選択するウィンドウが開きます。先ほど登録したライブラリ等、登録したいライブラリ名を選択してOKボタンを押します。

OKを押すと次に、作図するシンボルの基本的なプロパティを入力するウィンドウに切り替わります。

入力する項目が複数ありますが、必須項目は上の3つになります。
「シンボル名」:必須入力です。電子部品の型番や名称を入力する事が多いです。
「デフォルトのリファレンス記号」:いわゆる部品番号の先頭に着く文字です。エディター作図のシンボルはデフォルトで「U=Unit」が入力されていますが、自分で任意の文字を入力する事もできます。
「パッケージ内のユニット数」:基本は1のままです。複数の論理回路が入っているIC等の場合、複数のシンボルが集まって1つの部品になっている場合があります。そういった場合に限りユニット数の値を変更します。
例えばシンボル名、リファレンス記号を画像の様に入力して、OKボタンを押します。


すると、起動した画面右側の編集エリアに先ほど登録したシンボル名とリファレンス記号が重なった状態で表示されます。
ここから作図を進めてシンボルを作っていきます。
単位を設定、確認する
具体的に作図を進める前に、画面左側のアイコンを確認します。

「新規シンボルを作成」アイコンの下に、6つのアイコンが並んでいます。それぞれの機能は図に示した通りです。
特に単位については、KiCAD標準ライブラリのシンボルはすべてインチ単位を基準に作図されている為、特別に必要な事が無い限りはmm単位系を使用することは無いと覚えておいて下さい。
単位や画面表示関係を確認したら、編集エリアでの作図に取り掛かりましょう。
シンボル名称とリファレンス記号を配置する
とりあえず画面中央に重なって配置されているシンボル名称やリファレンス記号の位置を動かして、作図の作業がしやすい状態にしましょう。

文字の上にカーソルを持って行き右クリックします。複数の記号が重なっている時は図の様に選択するウィンドウが表示されますので、動かしたい方のマークを選んでクリックします。この時に選択するクリックは右でも左でも構いません。
マークをクリックすると、その記号に行える操作の一覧がサブメニューとして表示されます。

ここで「移動」を選択すると、マウスカーソルと一緒にマークが移動する状態になりますので、配置したい場所へ移動させて左クリックを押す事でその場所に配置する事が出来ます。
複数のシンボルが重なっている事が無い状態の、一個だけの記号の上で右クリックを押せば、直接このサブメニューが開きます。
この「記号の上で右クリック」からの「サブメニュー選択」は、KiCAD全体でも基本操作となりますので早いうちに慣れておきましょう。

編集するスペースが確保できたら、信号を接続するピンと部品である事を示すボディを作図します。
ピンを配置する:1本ずつ配置
順番としてはピンからでも、部品の中心部分になるボディの作図からでもどちらから始めても良いのですが、ここではピン配置を先に行います。

画面右側のアイコン「シンボルにピンを追加」をクリックして、画面内の任意の場所で左クリックします。すると、ピンのプロパティを決めるウィンドウが開きます。

この状態から空欄になっている上の2項目を入力します。
例えばピン名を「Vin」、ピン番号を「1」と入力します。

最低限設定する項目としては、プロパティ下段の「向き」があります。
画像の「右」の場合、画面左からワイヤーを伸ばしてきて接続するピンを追加する形になります。

方向は上下左右任意に切り替える事が出来ます。このプロパティは後で変更する事も可能です。
「エレクトリックタイプ」「グラフィックスタイル」等も高度な図示をする様になってくれば使う様になっていきますが、基本的なシンボルを描くのであればピン名と番号、入力方向を選択してあれば問題ありません。
OKボタンを押すと、編集画面にピンの記号が表示されますので、配置したい場所にカーソルで移動させて左クリックで決定します。

決定した後も「シンボルにピンを追加」アイコンが水色=有効のままになっていますので、左クリックを押せば続けてピンを作成、配置することが出来ます。終了する時は「アイテムを選択」アイコンをクリックして切り替えるか、キーボードのESCボタンを押してピンの追加を終了する事が出来ます。
ピンを配置する:ピンテーブルを使って配置
一度に多数のピンをまとめて追加したい場合は「ピンテーブル」を作成する方法があります。
エディタメニューの「編集」-「ピンテーブル」の順にクリックします。
ピンテーブルを入力するウィンドウが開きますので、ウィンドウ左下の「+」アイコンを押してピンの情報を登録していきます。



ピン番号、名前、入力タイプ、向き等は先ほどのプロパティ画面と同じ様に選択して決めていきますが、ここで一つ注意が必要なのが「X位置」「Y位置」の項目になります。
ここにはピン先端部分の座標を打ち込む必要があります。
単位はインチで入力しますが、シンボルエディターのグリッドの上に正しく配置する必要があります。そこでエディターのグリット設定を確認すると、デフォルト設定は「25mil」となっています。

単位:「mil」
mil?ミルってなんだ??とびっくりする人もいるかも知れませんが心配無用です。
1milとは「1/1000インチ」の事で、ちょうど1mと1mmの関係と同じだと考えて下さい。
従って、グリッド単位でピンを配置していくのであれば、0.025in単位でずらした値を入力していけば良い事になります。
画像では、3本のピンを下方向に-0.100in(グリッド4個分→-25mil×4=-100mil)ずつ下げて配置する様に登録しました。

これでOKボタンを押せば、複数のピンを一度に配置する事が出来ます。

もちろん1本ずつマウス操作で追加、移動させたピンも全てピンテーブルに反映されますので、これらの操作を組み合わせて必要な信号ピンを配置していきます。
ボディを作図する
信号ピンがその部品である事を決める為には、ピンがつながっている「ボディ」を作図する必要があります。
ピンを配置するアイコンよりも下側に、四つの作図アイコンがあります。

このアイコンによる操作を組み合わせて、四角い短径や部品特有の図形などを描いていきます。
それぞれのアイコンには青い線と緑の丸が描かれていますが、緑の丸が「クリック」、青い線が「操作で描かれる線」を示していますので、直感的に操作できると思います。
並んでいる中の一番上「シンボルのボディに短形を追加」アイコンを有効にして、四角いボディを描いてみましょう。

アイコンをクリックして水色に切り替え(=有効にする)、画面中の開始点を左クリック、続けてドラッグしていって対角になる終了点を左クリックします。
この状態でも、描いた短形の線の上で右クリックすれば操作可能な項目が表示されます。
サイズの変更や位置の修正などは一度配置した後でも行う事が出来ます。

KiCADのシンボルでは、標準出来な素子はこれが一つの構成であると見分けやすくする為にボディを背景色で塗りつぶしています。
「短形のオプションを編集」の項目からプロパティを開き、塗りつぶしのスタイルに背景色を選択してOKボタンを押します。

これで、KiCAD上で見慣れたシンボルのスタイルになってきました。

この様にして、必要なシンボルを追加して効率よい回路設計を進めていきましょう。
部品の原点を確認する(アンカーを利用する)
回路図エディターで作図する段階ではあまり気にする機会がありませんが、それぞれのシンボルにも原点座標が存在します。エディター記号時に描画エリアの真ん中に十字の線が引かれていて、この交点を原点として図形を描画します。
シンボルを描き終わった後で基準の位置を変更したくなった場合、図形全体を移動させる方法とは別に原点位置=アンカーを移動させる方法があります。

画面右側にあるイカリのマークのアイコンを有効にして、定義したい原点の位置を左クリックします。
ここでは3番ピンの先端を原点になる様にクリックしてアンカーを移動させます。

ピンテーブルを確認してみると、1番ピンを基準にマイナス方向にレイアウトされていた他のピンが、アンカーを配置された3番ピンを基準に上向きのプラス方向にピンがレイアウトされた構成に位置情報が更新されています。

シンボルの描画が終わったら、「シンボルプロパティを編集」アイコンを押してプロパティ画面を確認しましょう。
情報を追加できるシンボルプロパティ
シンボルプロパティ欄を利用してあらかじめフットプリントや必要な情報を付与しておくことが出来ます。

「Datasheet」の欄は、参考に仕様書等が閲覧できるURL等を貼り付けておくと便利です。
プロパティ下段のシンボル名、説明、キーワードは回路図エディターでシンボルを検索する時のフィルターの対象になりますので、分かる情報はなるべく入力しておきましょう。

全ての編集が終わったら、保存アイコンを押してエディターを終了します。
回路図エディターの「シンボルを配置」メニューから登録したシンボルを呼び出して使う事が出来る様になっています。


回路図エディターとシンボルエディターを組み合わせて使えば、新規シンボルだけでなく仕様変更で一部信号が変更になったシンボルを更新すると言った事も可能になります。