今回は、新しくなったKiCad Ver.8シリーズをもとに、回路から基板設計に使用する各エディターについて解説していきます。
基板設計に必要なツールの集合体「KiCad」
KiCadは回路図の描画を行う「回路図エディター」と、配線板の設計を行う「PCBエディター」の2種類のエディタープログラムを中心として、両ツールでの編集を支援する様々なツールの集合体になっています。
これまでのバージョン、特にVer.5シリーズなどから利用されていた方は一部のエディターを単独で利用する手法を愛用されているケースもありますが、現在のKiCadは回路設計時に作成されるプロジェクトの下で、各エディター間でデータがリンクする事によって快適な編集環境を確保する仕様になっています。
そのため、KiCadの基本操作はまずプロジェクトマネージャーを起動して回路プロジェクトファイルを作成または呼び出し、続けて作業工程に対応した各エディターを起動して編集を進めて行くことになります。


実際にプリント基板を作る際は、回路設計から始めてプリント基板のレイアウト設計へと進んでいきます。
ここではKiCadを利用して電子回路を開発する流れに沿って、
「プロジェクトの作成」
「回路図エディター」
「シンボルエディター」
「PCBエディター」
「フットプリントエディター」
の概要を解説したいと思います。
各エディターの更に詳細な解説については別記事を用意しますので、そちらも併せてご覧ください。
プロジェクトファイルの作成
回路開発を行う時は最初に「プロジェクト」と呼ばれる、設計データをまとめて管理するファイルを作成します。
完全に新規の回路設計を行う場合は、KiCadの起動後、プロジェクトマネージャーの画面から「ファイル」-「新規プロジェクト」の順に選択します。

サブウィンドウで保存場所を選択し、ファイル名を任意に決めてプロジェクトファイルを作成します。

ファイルが作成されると、管理画面の左側のウィンドウに2つのファイルが作成されます。
これら2つのファイルは「回路図エディター」「PCBエディター」の保存データで、両者とも図面枠が描かれているだけの、まだ何も回路が描画されていない状態の作図シートが生成されています。



回路図エディタ―
プロジェクトファイルの用意ができたら、回路図エディターを使って、図枠の中に回路図を描いていきます。

KiCadははインストールと同時に、沢山の電子部品のシンボル情報が登録されているライブラリもコンピュータの中に用意されます。
しかし、実際に設計を進めていくと、最新型の半導体のため、ライブラリに反映されていなかったり、使いたい仕様のシンボルとライブラリに登録されているデータとは描き方が異なる場合があります。
あるいは市販の半導体ではなく、自作した部品や小規模な回路を1つの部品に見立てて全体の回路中に組み込みたいなど、使いたいシンボルが存在しない、または見つからないということも多々発生します。
そんな時には、下記のシンボルエディターを使って回路図のシンボルを新規に作成、追加可能です。
シンボルエディター

旧バージョンでは「コンポーネントライブラリエディター」と呼ばれていましたが、基本的に同じツールです。
KiCad管理画面から、シンボルが描かれたアイコンをクリックして「シンボルエディター」を起動します。

エディターを使って回路設計に必要なシンボルを描きます。

描かれたシンボルは、既存のライブラリや新規に作成したオリジナルのライブラリに登録することで、回路図エディターで利用可能になります。
PCBエディタ―
こちらも旧バージョンで「プリント基板エディター」と呼ばれていたものと基本的に同じツールです。
回路図エディターで描かれた回路のデータをもとに、PWB、PCBの設計に必要な基板の形状、アートワークとも呼ばれる部品の配置と配線のレイアウト設計を行います。


回路図エディターで描かれた設計データは、プロジェクト内でリンクしているため、通常のEDAのようにネットリストを作成すること無くPCBエディターに反映可能です。このデータをもとにして配線のレイアウト、基板外形の形状設定を進められます。

設計されたPWB、あるいはPCBの外観をCGで確認する「3Dビューアー」機能は従来バージョンに比べて色々と機能が拡張されました。
これまでは仕上がり外観の目視確認くらいを目的としていた3Dビューアーに、各レイヤーごとの表示/非表示といったメニューが追加され、レジスト層よりも下の導体層まで設計中に確認できるようになりました。

PCBエディターで設計が終わったら、試作業者や工場に生産を行ってもらうためのファイルを生成して、基板設計は完了です。
試作した基板に何か問題が発生したら、必要な工程に対応したエディターを起動してデータを修正、フィードバックも容易に行えるようになっています。
フットプリントエディター
PCBエディターで基板のレイアウト設計を行う中で重要なのが、部品の形状や半田付けする部位の寸法、いわゆるフットプリントの正確さです。
電子部品の寸法やICの形状には各社共通の規格があり、その規格に対応したフットプリントを割り当てて設計するのが基本ですが、専用仕様のICやモジュール部品、特殊な形状のコネクタ部品等は共通規格のフットプリントに対応していない場合があります。

こんな時はフットプリントエディターを使用して専用のフットプリントファイルを作成、ライブラリに追加することで設計を進める事ができます。

先にも述べていますが、各エディターの更に詳細な使い方についてはそれぞれのプログラムごとに別記事を用意して順次投稿させて頂きます。
改良、進化を続けるEDA「KiCad」
様々な機能追加が行われたことで、従来バージョンとは使い勝手が少々異なると感じる人も少なくないのがVer.7から8に至るシリーズです。
フリーウェア故の問題点などは確かにありますが、これからEDAを使ってみようという方にも始めやすい良いツールになっていると思います。
次回以降、実際にインストールを行う手順や、使用前に追加しておいた方が良いお勧めの環境設定等についても順次ご紹介したいと思いますので、これからもよろしくお願い致します。
コメントを残す