プリント基板海外製造サービス/利用上の注意点

KiCadも含んだEDAソフトウェアが比較的容易に入手できる様になり、近年では試作や趣味の電子回路製作が手軽に出来る様になりました。

同時にインターネットの普及と関連技術の向上により、海外業者との取引に対する敷居も大きく下がった結果、個人事業主の規模でもECサイトを構築し自主開発の電子基板を全世界に向けて販売することも可能です。

この環境を確保する為には「プリント基板を安価に生産できる環境の確保」が重要なポイントとなり、実現にはWEBサイト経由の海外企業による製造サービスの利用が必要不可欠なのは言うまでもありません。

国内の基板製造企業を利用して同様の販売ルートを確立する為には、現状では数千枚規模を超える生産が維持できる様になって初めて可能になるというのは非常に残念なところではありますが、今回はこの海外製造サービスを使用する上で注意したいポイントを改めてまとめておきたいと思います。

手軽なWEBサービスでも注意点はある

プリント基板を海外企業が提供しているWEBサービスを経由して製造外注する時は、

「必要なデータを用意して」

「WEBサイトの自動見積を登録して」

「クレジットカードで費用を決済」

すれば、PWBで1週間位、部品実装で一ヶ月前後待っていれば国際宅急便で設計したプリント基板が届きます。

これだけの話だとプリント基板の海外発注は安価かつ手軽な、とても便利な方法であると思いがちですが、実際に発注する際には、以下のような注意点があることを覚えておいて欲しいと思います。

「品質管理体制を確認しよう」

プリント基板は、品質に問題があると動作不良や機器の故障を引き起こすことがあります。

よほど怪しげな、激安サービスを語るWEBサイトでもない限り、基本的にはある程度の品質保証体制を整えて製造に取り組む業者が殆どです。

ですが、高品質な製品を受け取るために、本格的な利用を進める前に発注業者のWEBサイトから品質管理体制に関する記述に目を通しておき、疑問点などあれば問い合わせをして確認しておくことを推奨します。

例:PCBGOGOのISO9001:2015\UL\REACH\RoHS認証一覧

今後量産して本格的な販売を行う計画があるのなら、品質管理に関する契約条件を含めた契約書の作成に応じてもらえる様な業者の選定も検討する必要があるかも知れません。

また、その規模の生産であれば、EMS(Electronics Manufacturing Service)の委託を含めて国内企業でも充分なコスト感で対応可能なところが出てきますので、しっかり検討するをことをお勧めします。

「配送方法を確認しよう」

海外発注においては、製造された基板が納品される段階で、輸送による損傷や紛失のリスクがあります。

某有名通販サイトの様なボロボロのダンボールに黄ばんだ粘着テープぐるぐる巻きの荷物で電子回路が届いた時は正直不安になります。

なので、適切な運送業者を利用できるかどうかは業者の選定において非常に重要です。独自の配送サービスを安価な価格設定で提供している業者もありますが、筆者の意見としてはDHLFedExのような国際的流通網を持っている業者を選択することをお勧めしています。

運送業者の選定の際にひとつ気を付けておきたい点として、荷物の内容や規模によって業者から配送先が企業だと判断された場合

「場合によっては土日祝に配送してくれない」

ことがあります。また、製造物の規模や内容によっては別途配送中に発生する税金や関税の支払いが必要になることもあります。その点からもリアルタイムに問い合わせ確認が可能な運送業者を選択できる製造業者を利用した方が安心です。

「ストレスなくコミュニケーションできる業者を選ぼう」

コンピュータによる自動翻訳も大変高性能になり、海外企業とのメールによるやり取りも随分楽になっては来ました。ですが、言語による細かいニュアンスや文化の違いによって発注先とのコミュニケーションがスムーズに進まないことがあります。

海外業者のWEBサイト等では、自動翻訳表示ではない本格的な日本向けページを準備している業者もかなり増えています。同時に日本語話者を担当窓口に配属して確実なコミュニケーションが出来る体制を整えている所もありますが、中にはWEBサイトはコンピュータが自動翻訳した日本語表示のみで連絡は英語にしか対応しない、現地時間の営業時間でしか連絡をしないという業者も一定数存在します。

まあ、現地で働いている人にしてみれば当たり前の話ではあるのですが。

時差で昼夜反転している国の業者さんからしたら「真夜中でも日曜日でも連絡してこい!」って事ですから、そんなクレーマー丸出しな連絡の取り方は避けたいものです。

言語対応の有無や時差によって生じる応答の時間差を考慮した、余裕のある円滑なやりとりが確立できる業者を利用することが大事です。

「納期は常に意識しておこう」

海外発注においては、前提条件として製品の輸送時間を含めた納期の遅れは発生するものと考えて下さい。

発注前に自動見積などで納期が提示されることも多く、基本的には製造業者も配送業者も日程を守る前提で働いてくれます。

最近では殆ど遭遇することもなくなりましたが、見積時に納期の回答が無い、又は曖昧な日程を回答する業者は製造スケジュールの面では少なくないリスクが存在していると考えましょう。

なお、昨今世界規模の急激な情勢変化が及ぼす影響により、突然回避不可能なスケジュール変更を求められるトラブルがしばしば発生します。

新型感染症の世界規模の拡大が起きるより以前の時代であれば「あらかじめ予測できるので対策しておくべき問題」と言われてきた様なキーワードが並んでいますが、この記事を書いている時点では「昨日の状況からでは事前に予測は不可能」なトラブルとして突然発生し得るリスクの数々になってしまいました。

膨大な予防策を常に講じておくか、どれだけ納期が前後しても大丈夫な電子回路を作っているのでもない限り、いつ生じるか分からないトラブルに対しては起きてしまったら都度対処するしか方法はありませんので、せめて心に余裕をもって適切な対応を取れる様に務めましょう。

「設計データの準備と管理は丁寧に」

海外発注に限らずプリント基板を製造する為には設計データの準備が必要です。

設計データの品質や形式は、製品の製造品質を左右することにもつながります。業者毎に求められる設計データの書式や詳細設定は異なることが多いので、事前に製造仕様を必ず確認し、必要に応じてデータの修整を行うことが重要です。

「A社はこのデータで問題なく製造したのに、B社では不良品になる」

というトラブルの話はよく伺いますが、事前にB社が対応できる書式や仕様を確認しておけば確実に回避できる問題ですので、これは業者ではなくオーダーする側でも予防できる問題と考えておいた方が良いと思います。

「一般的な仕様だから出来る筈」×

「この仕様で大丈夫だと確認する」△

「大丈夫な仕様を確認する」〇

若干言葉遊びの様な表現になっていますが、確認とは責任を押し付けることではない点を忘れない様にしましょう。

これらのような注意点を知っておいた上で、個人であればご自身の感覚にマッチした、企業法人であれば組織のシステムに適応した外注サービスを選ぶ様にしましょう。

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KiCadの達人
KiCad歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCadの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。