今回はちょっとした小技として、プリント基板エディター上で直接追加した部品に配線する方法についてご紹介します。
KiCadは回路図からのネット情報が設計の基準
KiCadでは基本的に、回路図エディターで回路シンボルを配置し、描かれた回路図を基にした配線情報=ラッツネストに従ったプリント基板の導体配線を設計する流れになっています。
ですが、基板設計中にどうしても信号観測用のピンを追加したい場合や、リバースエンジニアリング等の回路図が描けない事情があるような条件下でもプリント基板を設計する必要に迫られることがあります。
本記事は簡単な豆知識ではありますが、覚えておけば先述のようなちょっとした部品追加でも悩むことなくプリント基板設計を進めることができるようになりますので「そんなこと」と言わずに是非覚えておいて欲しいと思います。
通常は回路図エディターの更新で対応する
最初に説明用として、ATtinyマイコンを使用した単純な回路を描いてみました。
マイコンICの各ピンを2.54mm間隔の汎用IOピンに取り出します。
回路図を描いたら、プリント基板エディターに反映して部品を配置します。
ここでは自動配線を試してみます。ピン「J1」かマイコン「U1」のどちらか片方をクリックして選択された状態にしてから「shiftキー+Fキー」を押します。
キーを押した時点で選択されている配線幅をもとにして、回路図エディターが自動的に配線を配置してくれますが、選択した部品によって計算結果は異なります。
上図ではピンを選択した場合とマイコンを選択した場合を比較しています。この自動配線については完全に任せられる程の仕上がりになることは少なく、自動処理後でも各部の編集は必須だと考えておいて下さい。
今回はマイコン側を選択して自動配線したのち、少し手動で編集した状態から進めたいと思います。
配線が終わった状態が上図になります。
この状態でもJ1の各ピンから給電や信号を取り出せますが、かりに電源の給電だけ別のピンからも行えるようにする必要が生じたとします。
ラッツネストの無いフットプリントには配線できない
プリント基板エディターの「フットプリントを追加」から、2ピンのフットプリントを呼び出して配置してみました。ですが、このままでは接続情報に基づいた誤配線保護の機能が邪魔をして、配線を接続することが出来ない状態になっています。
通常のKiCadによる修整作業であれば、回路図エディターに戻って追加したいコネクターや該当する部品のシンボルを追加、フットプリントを割り当ててプリント基板エディターに反映する事でラッツネストが接続された状態=配線可能な状態にすることが出来ます。
しかし、最初に述べた通り、色々な事情で回路図を変更したくないという状況は思ったよりも多く発生します。
「やっぱりプリント基板エディターで直接追加したフットプリントに配線を接続できるようにしたい」のであれば、追加したフットプリントのパッドに「ネット情報を追加」することで配線を接続可能になります。
パッドごとの「プロパティ」がカギ
接続できるようにしたいフットプリントの「パッドのプロパティ」を開きます。
「フットプリントのプロパティ」ではなく、少々手間ですが1つずつパッドの設定を行います。
プロパティを開いたら、左上の項目から「ネット名」の項目を開きます。
プリント基板エディター上で追加したフットプリントは、基本的に<ネットなし>が選択されていますので、選択肢の中から接続したいネット名を選択しOKボタンを押します。
上図ではJ2コネクター、パッドNo.1のネット名に「J1-Pin_4」を選択しました。
これまで接続情報が無く配線が出来なかった部分に、ラッツネストの補助線が現れて配線が出来るようになりました。
同様にJ2のパッドNo.2もプロパティからネット名を選択する事で配線を実行可能になります。
今回の手法の応用例としては、Arduino回路試作用のユニバーサルシールドを自作するケース等が挙げられます。
ユニバーサル部分を回路図で描く必要はありませんが、使い勝手向上の為に両端のコネクターから引き出す信号パッド部分について、今回のようにプロパティ編集する方法で作図すると、設計作業をずっと楽に進めることが出来るようになります。
「知っておいて損は無い」が時として重要なノウハウになる
今回はパッドごとのプロパティ内にある設定項目1つについて説明しただけですが、これを知っているだけで、
「既存回路の周囲に回路には無いコネクターを拡張する」
「観測専用LED等の部品を基板上に追加する」
といった作業が格段に楽になります。
但し、部品の追加を生じる変更になるのであれば、基本的には回路図エディターに戻ってシンボルの追加描画を行った方が、その時点での手間は増えたとしても後日の混乱を防止する意味から有効だと思います。
「こういう方法もある」として覚えておいて頂き、状況に応じて都度適切な修整作業が行えるようになって欲しいと思います。