EDAの歴史について

KiCadも含まれるEDAの歴史について聞かれることが多かったので、今回すこしまとめてみたいと思います。

電子回路・基板設計に特化したCADセット=EDA

Electronic Design Automation(EDA)は、電子デバイスやシステムの設計に使用されるソフトウェアツールの総称です。EDAは、IC(集積回路)の設計からPCB(プリント基板)の設計、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)の設計、電源回路の設計など、様々な分野で使用されています。

EDAの歴史は、1960年代のICの普及とともに始まります。1958年にテキサス・インスツルメンツが、シリコンの均一な板にトランジスタや他の部品を組み込んだ最初のICを作成しました。一方、同じ年にフェアチャイルドセミコンダクター(現オン・セミコンダクター)も同様の技術を使用したICの開発を進めていました。

テキサス・インスツルメンツ社:https://www.ti.com/ja-jp/homepage.html

オン・セミコンダクター社:https://www.onsemi.jp/

フェアチャイルド社は当時、シリコンチップ上に配線を形成するために当時全く新しい「プラン・アライト・プロセス」と呼ばれる手法を開発しました。この製造技術は、現在でも半導体製造の基礎となっている技術の一つです。

1960年代半ばには、ICは広く採用され、コンピュータ、通信システム、制御装置、医療機器などの様々な分野で使用されました。その後、現在まで続く半導体技術の進歩によって高い集積度、高速で省電力なマイクロプロセッサやメモリーが次々と開発され、現代の情報技術を支える基盤となっています。

コンピュータの進化と同時に成長したEDA

最初のEDAツールは、手作業で行われていた設計プロセスを自動化することを目的としていました。当時のEDAツールは既に工程ごとに、回路シミュレーション、回路図エディタ、ICレイアウトエディタ、自動配線などの機能を有したソフトウェア群といったスタイルを備えていました。これら初期のEDAのツールは、IBM、ベル研究所(現在はノキアの子会社)、Tektronixなど現在も存在する大手企業によって開発されました。

1970年代にはコンピュータの小型化と高性能化が進み、それと並行してEDAの技術も急速に進歩しました。この時期には、EDAツールの機能が大幅に向上し、電子回路の設計を効率的に行うための機能が追加されました。また、EDAツールの市場は拡大し、Cadence Design Systems、Mentor Graphics(現シーメンスEDA)、Synopsysなどの大手企業が設立されました。これらの企業は、EDAツールの開発と販売に特化したビジネスモデルを確立し、EDAツール市場を支配、けん引する3大企業として存在しています。

Cadence Design Systems社:https://www.cadence.com/en_US/home.html

シーメンスEDAジャパン社:https://www.mentorg.co.jp/

Synopsys社:https://www.synopsys.com/

1980年代には、EDAの技術が更に進歩し、VLSI(Very Large Scale Integration)回路の設計に使用されるEDAツールが開発されました。これらのツールは、従来のEDAツールよりも高度な機能を備え、ICの複雑な設計を効率的に行うことができるようになりました。

パーソナルコンピュータが実現した「パーソナルEDA」

1990年代には、EDAツールが一般用PCにも移植される様になりました。これまでは企業や研究施設に据え置きされていた専用コンピュータで作業をするものだったEDAが、文字通り「パーソナル」に使えるようになり、EDAの市場は大きく拡大しました。また、OSの上で動作するアプリケーションとしてEDAツールの機能は洗練されると同時に更に進化を遂げ、設計エラーの検出や修正、設計データのPCでの管理といった機能が追加されて、現在我々が使っているKiCadに代表されるEDAアプリケーションの基本形が完成しました。

2000年代には、EDAの技術が更に進化し、FPGAやSoC(System-on-a-Chip)の設計にも使用可能なEDAツールが開発されました。これらのツールは、ハードウェアとソフトウェアの設計を統合し、設計の効率性をさらに向上させました。

EDAの動向と将来

Electronic Design Automation(EDA)は、常に進化しており、最新の動向として以下の様な話題が挙げられます。

AIによるEDAの自動化

最近のEDAツールには、自動処理プログラムから発展したAI(人工知能)に基づく機能が実装された物も多く、今まで以上に自動化された設計プロセスが利用可能になっています。

今後「回路図のデータと基板外形等の機械的な情報のみ入力すればあとはAIが全て設計してくれる」ようなツールになっていく、と様々な方面から言われてはいますが、アナログ回路設計や、クリエイターと呼ぶのがふさわしいような技術者による独創的な電子回路設計を自動化できるのはそれほど近い未来だと思えないのが現状です。

クラウドベースEDAの更なる普及

現在のKiCadはインストールされたPC上で動作する、スタンドアローンタイプのEDAですが、旧バージョンでは膨大なライブラリデータの管理の為にオンライン接続を前提としたソフトウェアとして提供されていた時期がありました。

現在のバージョンでも様々なクラウドサービスを併用することでクラウドベースEDAツールと同様の使い方も可能ですが、KiCad以外に多くのベンダーからクラウドベースEDAのアプリケーション/サービスの提供も行われています。

クラウドベースのEDAツールは、大規模なプロジェクトに多くの設計者を従事させる際に最適です。複数のエンジニアが同時に作業でき、設計データの管理も簡単になるため、今後更にクラウドベースのツールの市場が拡大していくものと思われます。

IoTデバイスの設計に注力

IoT(Internet of Things)デバイスは、EDAツールが求められる最新動向の一つになっています。IoTデバイスの設計には、常に省電力設計や過酷な環境下での高い信頼性が求められます。技術者にも相応の技術力が求められますが、同時にデザイン性を優先したIoTデバイスを小規模の企業やフリーランサーが製品化するといった動きも活発になっており、最新のEDAツールは多機能性とデザイン性の高い設計にも対応した使い易さが求められています。

3D ICデザインへの対応

3D IC(3次元集積化IC)は、複数のICを積層して1つのパッケージにまとめる技術です。これにより今まで以上に高い性能と省スペース化が両立できるため、研究と量産レベルの生産技術開発が多くの企業で推し進められています。

これからのEDAツールは新しい3D IC設計技術にも対応し、効率的な設計を可能するよう機能強化が続いていくことでしょう。

以上のようにEDAは常に進化しており、これからも効率的に、高性能で信頼性の高いデバイスの設計の場で活用されるでしょう。

進化を続けるEDA、進化するKiCad

2023年にリリースされたKiCad ver.7シリーズですが、ロードマップには機能追加実施を前提にしたVer.8について既に言及され始めています。

最新バージョンで多くの改良が施され使い易さが向上したKiCadの今後の発展を見守りながら、電子回路設計にこれからも使い続けようと思っています。

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ABOUT US
KiCadの達人
KiCad歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCadの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。