今回は「PCBエディター」を使用する前に行う基板セッティングについて解説します。
設定項目が多いため、前後編の2回に分けて解説したいと思います。
多くの人が最初は標準設定のまま使用していると思いますが、多層基板やより踏み込んだPCB設計を行うために、基板セットアップのメニューはしっかり覚えて使いこなせるようになりましょう。
「基板の設定」を確認しよう
事前に回路図レイアウトエディターを使用して、回路記号(シンボル)にフットプリントの割り当てが行われた状態までの設計が済んだところから始めたいと思います。
KiCadの管理画面から「PCBエディター(旧バージョン:PCBレイアウトエディター)」のアイコンをクリックして起動します。
すぐに回路図エディターのデータを読み込んで編集を開始してもいいのですが、最初に基板設計の基本情報を設定しておきましょう。
基板の基本情報は編集中でも変更できますが、層数の変更などは編集中のデータに影響が出る恐れがありますので、できる限り事前に設定しておいて下さい。
メニューリストから「ファイル」―「基板の設定」の順にクリックするか、
もしくは、画面左上にあるPCBエディターのアイコンに赤い歯車が乗った「基板の設定」アイコンをクリックして基板セットアップ画面を開きます。
基板セットアップの画面が開いたら、上から順に必要項目を設定していきます。
KiCadをインストールした直後の標準設定では「両面基板(2層基板)」で一般的な設定値が入力された状態になっています。普通の2層両面プリント基板を設計するのであれば、この標準設定のままでも大きな問題はないと思いますが、設計に慣れてきて、4層以上の多層基板を設計したいといった場合は、設定の変更や追加項目の編集をしましょう。
全ての設定項目を解説すると膨大な量になってしまいますので、各設定項目について概要をご紹介します。
「基板編集レイヤー」
セットアップを開いた直後に選択されている「基板スタックアップ」-「基板編集レイヤー」画面では、PCBエディターで使用する各レイヤーの名称を変更できます。
この項目は、次に紹介する「物理的スタックアップ」の項目で基板の層数=導体レイヤーの数を変更することで信号レイヤーの数が増減します。レイヤーの名称を編集した場合は、先に物理的スタックアップの設定を行ってからこの画面に戻ってくるようにしてください。
最初に確認したい「物理的スタックアップ」
次のメニューは「物理的スタックアップ」になります。この項目は、プリント基板のハードウェア面の設定を入力する項目がまとめられています。
PCBエディター上で作業を行うだけであれば、左上の「導体レイヤー」の項目を必要な層数に設定するだけでも問題ありません。しかし、実際にプリント基板を製造依頼する時に必要になる材料やマスク指定、導体レイヤーの厚み指定といった仕様はあとで製造指示書を作成する時に必要になる項目でもありますので、わかる範囲だけでも入力しておくことをお勧めします。
高度な電子回路を設計する段階になると、この項目に記載されるような製造仕様を厳密に指定して指示を出さないと、製造されたプリント基板の性能が安定しないといった事態が起きることもあります。
物理的スタックアップの項目は、KiCad標準設定では「板厚1.6mm、導体レイヤー2、両面実装基板」を設計できるように設定されています。
導体レイヤー数を2(両面)から4(両面+内部2層の多層基板)またはそれ以上に変更すると、下部の各項目がプリセットされた内容に切り替わります。
現在のKiCadで設計できる導体層の数は、最大32層とされています。
さすがにこれだけの多層基板を設計するとなると、コンピュータ側もそれなりの性能が必要になりますので、あまり使用する機会は多くないと思いますが、本格的な高性能基板を設計することも可能なEDAにはなっています。
基板端面を活用する「基板仕上げ」
次は「基板仕上げ」の項目です。
USBコネクタやグラフィックボードのようなコネクタに直接差し込む電子機器など、プリント基板の端面にも導体層から端子形状が露出している基板を設計する際に設定する項目がまとめられています。
基板端面のスルーホールやメッキの有無、銅箔の仕上げ、エッジカードコネクタの設定をこちらの画面で行います。
注意が必要な「ハンダマスクとハンダペースト」
次は「ハンダマスクとハンダペースト」のクリアランスに関する設定を行う画面です。
KiCadの標準設定では、すべての項目に「0」が入力されています。
ここは一つ注意点があります。
画面にも「ハンダマスクの拡張と最小ウェブ幅については、基板メーカーの推奨値を使用して下さい。指定が無い場合、値をゼロに設定するのが推奨です。」と記載されていますが、これは「クリアランスをゼロにする」のではなく、「外注メーカーの推奨値が分からないから設定しない」という意味でゼロ入力しているということです。
ネット経由で海外に基板発注する場合、この項目をゼロ設定のままデータを作成しても製造は可能です。ただし、基板のハンダマスク部分のクリアランスは各業者の判断に任せることになります。
よく「海外製造の基板の品質は悪い」とコメントされているネット情報を見かけますが、このクリアランスを設定していないことに起因する、回路のパッド部分ではんだ不良などを引き起こしているケースがあるので注意しましょう。
また、国内業者の場合「クリアランス値>0で設定されていない場合は製造できないので値を入力して欲しい」と連絡が来る場合がありますので確認して修整するようにしましょう。
「テキストと図形」-「デフォルト」
次は「テキストと図形」のグループです。
最初は「デフォルト」設定の画面です。
各レイヤーで使用される線、テキストの寸法について初期値を変更できます。
基本的には標準設定のままで使用に問題はないと思いますが、画面との組み合わせで文字や線が見づらい場合などは数値を調整しましょう。
なお、シルクレイヤーや導体レイヤーの設定はそのまま製造データの文字サイズ、線幅の標準として受け継がれますので注意して下さい。
フットプリント読み込み時に重要「フォーマット」
次の「フォーマット」の項目では、破線の形状設定や、フットプリントをプリント基板エディターに読み込んだ際に各種設定を自動で適用するか否かを選択できます。
今回の解説はここまでとさせて頂きます。
以降の「デザインルール」の解説は後編へと続きます。プリント基板の設計時に便利な機能を効果的に利用する項目がこの後も続きますので、是非合わせてご覧頂ければと思います。
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