今回はKiCad Ver.7シリーズを使用して設計した回路図のデータからプリント基板を設計する「プリント基板エディター」の使い方について解説します。
「プリント基板」の必要性
具体的にレイアウト設計を始める前の準備、設定についてからお話ししたいと思います。
プリント基板とは、現代社会では欠かすことができないあらゆる電子機器の中核となる構成部品であり、技術革新の基礎となる重要な要素となっています。そのため、プリント基板の製造市場は非常に大きく、年々拡大しています。

また、最近のトレンドとしては、高速伝送用の高周波対応基板や、スマートフォン、タブレット、ノートパソコンなどの小型化・軽量化に適した薄型基板やフレキシブル基板の需要が増加しています。
用途の面から見ると、自動運転車や人工知能、5G通信などの急速な発展に伴い高密度・高信頼性・高機能性を持つ基板の必要性は年々高まっています。
さらに、エコロジー志向が高まる中、環境に優しい製造技術や再利用可能な素材を使用した基板素材の研究開発も活発に進められています。
設計技術は「道具」と「技術者」で成り立つ
つまり、同じ「プリント基板」と呼ばれる構成部品でありながら、基板の厚みや素材、回路の取り回し手法など用途によって数えきれない程の種類に分類される電子回路と各分野に対応した設計を行える多くの技術者が、現在必要とされているのです。
プリント基板エディターの「基板設定」を行う
KiCadでは多くの高機能なEDAと同じように、基板設計時にあらかじめ必要な情報を登録しておくことで、多くの需要に応えられるように設定メニューが用意されています。

回路図エディターで回路描画、フットプリントの割り当てを終えたら、次の工程としてプリント基板エディターに移行しますが、まず「基板の設定」メニューを開いて目的とする基板が正しく設計できるように各種設定を行いましょう。

「基板の設定」メニューを開くと、一番最初に基板スタックアップの項目から「基板編集レイヤー」の設定画面が開かれます。下の画像では既に4層基板として設定されているプロジェクトの設定を開いている為、表面、裏面の導体層だけでなくIn1、In2という内部導体層レイヤーが生成されています。
この画面で導体層やレジスト層といった各機能レイヤーに割り振られている名称を編集できます。

基本的にはKiCadの標準設定のままで特に問題ありません。
製造業者によってレイヤー名称の指定が必要になる場合や、設計を外部から受託する場合など先方のネーミングルールに従う必要がある場合などは都度編集して下さい。
また、続けて解説する「物理的スタックアップ」の設定で多層基板を選択することによってレイヤー数が変化します。基板編集レイヤーの名称変更を行う場合は各種設定を行ってから最後に編集すると良いでしょう。

「物理的スタックアップ」の項目では基板の構成を設定します。最初に設定画面の左上にある「導体レイヤー」の層数を選択します。プリント基板は基本的にコア素材の表面と裏面が同じ層数となるように製作されるので、導体レイヤーの数は偶数で2層ずつ増えていくことになります。

レイヤー層を選択したら、次は画面下段に視線を移して「スタックアップからの基板厚」を設定します。

「導電体の厚さを調整」ボタンを押して設計したい基板(PWB)の厚さを入力します。
設定の流れとして「層数決定→基板厚み決定」の順で行います、画面中で操作を行ったり来たりして操作ミスを誘発しないよう注意して下さい。
個人的にはこの項目は導体レイヤー設定項目の隣にあっても違和感がないと思うのですが、ずっとこのレイアウトのままです
ここに入力された厚みをもとにして、設定画面中の各層の厚みが自動計算されます。一般的に知られている固いプリント基板(=FR4等)であれば、2層~6層位までは特に意識せずに設定を進めてしまってもよいと思います。KiCadで設定できる基板厚みの最小値は導体レイヤーの層数によって異なりますので注意して下さい。

腕時計のムーブメント用や、最近ではウェアラブルデバイス用として極薄のプリント基板を製作することもあります。その場合、必要とされる基板の種類によっては余裕を持った層数の確保が難しくなるといったこともあります。
また、KiCad上の設定は「設定可能な値」であり「=製造できる値」ではないことにも注意して下さい。標準仕様と異なる板厚の基板を設計する場合は、製造を依頼する業者が製造可能な仕様を必ず確認して、その範囲を逸脱した設定をしないようにしましょう。
基板設計者の腕の見せ所です(笑)
次に「基板仕上げ」の項目に移ります。

ここでは特に、基板端面の処理について重要な設定項目があります。直接コネクタに差し込むタイプの端子をレイアウトする基板設計などには欠かせない設定項目なので気を付けましょう。
「端面スルーホールパッド」「基板端メッキ」は有無についてチェックを、
「銅箔仕上げ」「エッジカードコネクタ」はプルダウンメニューから詳細を選択する方式で設定します。

つぎに「ハンダマスク/ハンダペースト」の項目を設定します。

開いた画面に記載されている注意事項の通り、ハンダマスクの拡張、最小ウェブ幅、導体間のクリアランスについては標準値でゼロを設定することが推奨されています。
大半の製造業者はこの設定のまま出力した製造データで作業を行ってくれますが、基板の製造業者によっては使用している設備に基づく詳細な設定値が指定されている場合があります。利用する業者のWEBサイトや製造仕様書などを事前に確認し、設定値が公開されている場合はその値を入力するようにして下さい。設定値を反映しなかったことで、ごくまれに部品実装時の半田ペーストの不良などを引き起こすことがありますし、品質を重視する国内企業の場合は製造を請けてもらえない場合もあります。
国内製造業者の例として「P板.com」のWEBサイトを確認すると、各項目についてはハンダマスクのクリアランスを0.1mm、最小ウェブ幅を0.1mmにするように指示がされています。
上記の画像内の設定項目も、このP板.comの設定値を反映したものになっています。

WEBサイトの項目とKiCadの設定項目とで名称が異なりますが、本記事の作成時点でP板.comのサイトでは「Ver.6.0.11」に準拠して記載されているだけなので、おそらくすぐに最新版が反映されるものと思います。
「ハンダマスクのクリアランス=ハンダマスクと導体間のクリアランス」
「ハンダマスクの最小ウェブ幅」
「ハンダマスクの拡張←通常はハンダマスクのクリアランス値と同一」
と考えてもらえばよいと思います。

ここまでで基板設計を行う為の準備段階、基板そのもののスタックアップ(積層設定)が出来上がりました。
一気に説明すると長くなるので、「テキストと図形」「デザインルール」については別の記事に分割して解説させて頂きます。
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