PCBエディタでエクスポートできるファイル(3)

KiCadのPCBエディターで基板のレイアウト設計を行い、途中から他のEDAや3DCAD等にデータを引き渡して以降の設計作業を進めたいという場面があります。

今回はそういった場合に「エクスポート」可能なファイルの中から、特に3D-CADやCGに設計した基板の形状をデータとして活用できる、

「STEP」

「SVG」

の2つについて解説したいと思います。

STEP(Standard for the Exchange of Product Model Data)とは?

STEPファイルは、製品の3Dデータを異なるCADソフトウェア間でやり取りするための国際標準フォーマットです。正式には ISO 10303 で規定されています。


1. STEPの基本情報

📌 STEPとは?

  • 正式名称:Standard for the Exchange of Product Model Data
  • ISO規格:ISO 10303
  • 拡張子.step, .stp
  • 主な用途
    • 異なるCADソフト間で3Dデータを交換
    • 3D形状、アセンブリ、材料情報などを含む
    • 製造・解析・シミュレーション向けのデータ統一

2. STEPの特徴

🔹 ① CADソフトの互換性を向上

ほぼすべての3D CADソフトで対応(SolidWorks, CATIA, NX, Creo, AutoCAD など)
基本的にベンダーごとの独自フォーマットに依存しない(例:.sldprt, .prt, .3dm などの代わりに使用)

🔹 ② データの正確性が高い

NURBS(曲面データ)やソリッド情報を維持
アセンブリ構造(部品の関係性)も保存可能

🔹 ③ 製造・解析プロセスと連携

CNC加工、3Dプリント、CAE解析で活用
BOM(部品表)や材質データも含めることができる


3. STEPの主なファイルフォーマット

STEPファイルには、用途に応じた異なるアプリケーションプロトコル(AP, Application Protocol)が存在します。

AP番号名称用途
AP203Configuration Controlled Designソリッドモデル、ジオメトリ
AP214Core Data for Automotive自動車業界向け、カラー・レイヤー情報追加
AP242Managed Model-based 3D Engineering最新版、CAD/PLM統合、BOMやPMI情報も含む

4. STEPのメリットとデメリット

✅ メリット

高い互換性 → ほぼすべての3D CADで開ける
正確なデータ表現 → サーフェスやソリッドのデータ損失が少ない
長期保存に向いている → ベンダーに依存しないフォーマット

デメリット

CG用には情報不足 → マテリアルやテクスチャ、照明等のデータが含まれていない
可動モデルの情報は欠損する → 3DCAD等のアセンブリモデルは完全に独立したデータになるか、1つのソリッドモデルとして提供される
BOM生成には不向き → プロパティに追加した購買データ等は引き継がれない

以上のように、STEPファイルとは「3Dモデルを作成、編集、共有するための標準化された形式」なので、KiCadで設計したプリント基板のデータを、別の3D-CAD等で設計に利用したいといった場面で活用できる形式となっています。

SVG(Scalable Vector Graphics)とは?

SVG(スケーラブル・ベクター・グラフィックス)は、XMLベースのベクター形式の画像フォーマットであり、拡大・縮小しても画質が劣化しない特長を持っています。主にWebページやUIデザイン、アイコン、グラフ、アニメーションなどで使用されます。

<ベクター形式って何?>

ベクター形式とは、数学的な座標と計算によって定義されたデジタルデータです。線や曲線などの形状が数式で表現されており、拡大・縮小しても画質が劣化しないという特徴があります。

DXF等に代表されるように、一般的なCADのデータはベクター形式で表せるため、デザイン分野のアプリケーションとも高い親和性を持つデータ形式だと言えます。


1. SVGの基本情報

項目内容
正式名称Scalable Vector Graphics
拡張子.svg
開発元W3C(World Wide Web Consortium)
主な用途Webデザイン、UIアイコン、グラフ、イラスト
対応ブラウザChrome, Firefox, Safari, Edge, Opera(ほぼ全て対応)

2. SVGの特徴

🔹 ① ベクター形式(拡大・縮小しても劣化しない)

  • ビットマップ画像(PNG, JPG,ラスター形式)と異なり、SVGは数式で形状を記述
  • 画面サイズに応じて自由に拡大・縮小でき、解像度の影響を受けない

🔹 ② XMLベース(テキスト形式で記述可能)

  • 人間が読めるXML構造で記述されるため、手書き編集やスクリプト操作も可能
  • HTMLやCSS、JavaScriptと統合しやすいのでデータ活用が容易

🔹 ③ インタラクティブ & アニメーション対応

  • CSSやJavaScriptでスタイルや動きを制御可能(色変更、移動、変形など)
  • SMIL(SVG Animation)によるアニメーションにも対応

🔹 ④ 軽量でWeb最適化

  • PNGやJPGに比べてファイルサイズが小さくなる場合が多い(特にシンプルな図形やアイコン)
  • WebフォントやCSSスプライトの代替として使用することも可能

3. SVGの基本構造

SVGはXML形式で記述されます。以下のコードは赤い円を表示する基本的なSVGの例です。

<svg width="100" height="100" xmlns="http://www.w3.org/2000/svg">
  <circle cx="50" cy="50" r="40" stroke="black" stroke-width="2" fill="red" />
</svg>

🔹 このコードの説明

  • <svg> → SVGの開始タグ(widthheight でキャンバスサイズを指定)
  • <circle> → 円を描画
    • cx="50" & cy="50" → 円の中心座標
    • r="40" → 半径
    • stroke="black" → 枠線の色
    • stroke-width="2" → 枠線の太さ
    • fill="red" → 塗りつぶしの色

4. SVGの応用例

SVGファイルは主にイラスト分野向けのデータになりますが、EDA等の設計データをCAD以外のソフトウェアに正確に引き渡せるため、製造工程での確認や各種ドキュメントにデータを活用するといった作業に適しています。

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KiCadの達人
KiCad歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCadの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。