ビアとスルーホールについて

KiCad等のEDAを使用してプリント基板(PCB)を設計する際に考慮すべき点は多岐にわたります。

今回は多層基板や半田付け基板を設計する上で欠かせないビア(Via)とスルーホール(Through Hole)について、いくつかの注意点を挙げながら解説してみたいと思います。

ビア」と「スルーホール」について

ビアはプリント基板の導体層間を接続するために使用し、回路のパターンを別の層に引き回すために使用します。これに対してスルーホールは部品のリードを挿入して、はんだ付けを実施するために使用します。

どちらも導体層間のパターンを接続するために使用しますが、ビアとスルーホールではその役割が異なるため、設計の目的に応じて適切に選択する必要があります。

例えば、部品の接続にビアを使おうとする人はまずいないと思いますが、どんなに設定を変更して開口部のドリル穴を大きくしたとしても、通常ビアとして設定できる範囲では電子部品のリードは挿入できないため不適切であることが分かります。

これに対してスルーホールの場合、部品の取り付けと層間のパターンを接続する両方の目的を兼ねることは可能です。

ただし、はんだ付け部に生じる強度の変化や熱による導体へのストレスを考慮した設計が必要になることがありますので注意が必要です。

ビアサイズとパッド(ランド)の関係

ビアやスルーホールの直径、パッドの外径(ランドサイズ)については、プリント基板を製造する発注先の企業が公開している設計規則がある場合、原則としてそれに従うように基板設定を変更して下さい。

特に必要が無い限り、ビアサイズは1枚の基板中では1種類に統一するようにしましょう。製造そのものは不可能ではありませんが、複数種類のビア設定が存在する場合、加工工程が増えて費用増加や品質管理の困難さを生む原因となります。

また、寸法について過剰に小さいビアやランドは製造不良の原因になるため無理に小径化する必要はありませんが、逆に過剰に大きいと基板上のスペースを圧迫し、導体層のパターン取り回しに影響することがありますので適切な寸法を使用するようにしましょう。

KiCadではプリント基板エディターの「基板の設定」メニューから設計ルールを変更して適切なサイズにすることができます。

一般的に言われているサイズは、ビアの外径がドリル径×2倍になるようにアニュラリング(導電リング幅)を設計する事とされています。ただし、この設定については製造業者によっては個別に数字が定められている場合がありますので発注前に一度確認するようにしておきましょう。

KiCadの場合、通常のビアについて基板の設定メニュー上では「アニュラー幅」「ビア直径」のそれぞれ最小値をデザインルールとして設定します。

デザインルールで最小値を決めた後、プリント基板エディターで編集中のプロパティで詳細を確認、変更することができます。

現在のバージョンでは標準設定が「ビア直径:0.6mm」「ビア穴径:0.3mm」となっています。もし基板上で変更が必要な場合は、個々のプロパティで変更するよりも作業を始める前の段階、プロジェクト作成直後にビアの寸法値を変更しておきましょう。

基板の設定からネットクラスを選択し、「Default」の設定項目にあるサイズを変更しておけばOKです。

ただし、この設定はプロジェクト内で既に配置済みのビアには適用されません。その場合は手動でプロパティを編集するか、ビアを一度削除して再配置するなどで対応しましょう。

一方、スルーホールのランドサイズは、部品リード径に対してある程度余裕を持たせる必要があります。寸法に余裕が無ければ電子部品のリード線が通せませんし、ホールサイズが大きすぎれば半田付け作業時の不良を誘発する原因にもなります。

KiCadで用意されているフットプリントは大半がその部品に合わせて調整済みのデータが用意されています。

もし自作でスルーホールタイプのフットプリントを作成する場合は、使用する部品から出ているリード線端子の寸法に合わせて変更する必要があります。同時に電子部品の部品メーカーが公開している寸法図面なども参考にすることで製造時のトラブルを回避できます。

電気的・熱的設計も考慮するとより良い

ビアは単に導体層の間を接続するだけではなく、その数や配置は電気信号のインピーダンス、生じるノイズ、熱の放散などにも影響する事が知られています。

よって、設計する回路によってはスルーホールを流れる電流や熱の影響を考慮してビア等を配置する必要があります。

電気的側面から考えると、ビアも一つのインピーダンス素子のようなものとみなせるため、パターンを流れる信号の品質に影響を与える可能性があります。このため、高速通信を行う回路の信号線では、銅線によるパターンと同様に適切な配置が必要になります。

また、大電流が流れる部位に複数のビアを並列に配置する手法が良く用いられますが、この際各ビアの電流分担についても注意しておく必要があります。

熱的側面からの注意点としては、ビアやスルーホールは電気だけでなく熱も拡散させる役割を果たすことがある点に留意しておきましょう。

例えば、パワーデバイスの基板上にサーマルビアを使用して、発生する熱を別の層に逃がすような設計が一般的に行われています。

まとめ

ビアとスルーホールを設計する際は、以下の3つの点に注意しましょう

用途に応じた適切な選択(ビアは層間接続、スルーホールは部品接続)。

サイズとパッド寸法の適切な設計(設計ルールと製造業者の推奨値に従う)。

電気的および熱的要件の考慮(信号品質、ノイズ対策、熱拡散)。

これらを意識して設計することで、機能的かつ製造可能な基板を効率的に作ることが可能になります。

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KiCadの達人
KiCad歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCadの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。