2024年12月3日に、KiCadのバージョン8.0.7が公開されました。
前回のバージョン8.0.6から二ヶ月ほどが過ぎての修整版公開になります。
公式サイトからダウンロードが可能になっていますが、今回は何が修正されたのかについて見ていきましょう。
DXFインポート時の不具合対策を実施
全体的な変更で特に目についたのは「DXFインポート時の各種不具合を修正」した点です。
DXFフォーマットは、CADで描かれた図形データを座標や属性の数値情報で表現したベクター形式と呼ばれるデータです。DXFフォーマットは2次元または3次元CAD、およびそれらを利用したCNC工作設備で広く利用されており、KiCadでも外形レイヤーの描画や特殊な形状を実現する手段としてインポート可能なフォーマットとしてサポートされています。
ただし、一般的な機械系CADで描かれたDXFフォーマットの属性や数値情報のすべてを読み込める訳ではなく、KiCad上での利用には不要な情報や、描画可能な範囲を超えた桁数の数値などの一部で読み込みエラーが発生するという報告がありました。
今回のバージョンアップでは、全体的にこれらの対策に加え、フォントの描画に関係した調整が行われたようです。
話題の「EasyEDA」データへの対応を強化した回路図エディタ
回路図エディタについては、最近話題の「EasyEDA」による設計データのインポートに対応する調整が集中して行われています。
「EasyEDA」は中国のPCB製造サービス「JLCPCB」を運営する企業が展開するサービスで、豊富な機能をオンライン又はダウンロードしたアプリケーションを用いて利用できるプリント基板設計アプリケーションです。
現状、無償版では独自ライブラリーを作成することはできませんが、運営に申し込みをしてデータを作成・登録してもらうことで一定数の代替が可能です。
「EasyEDA」も、機会があれば使い方などをまとめてみたいEDAではあります。
他にはEagleのプロジェクト読み込み失敗(クラッシュ)の原因の一つが判明して対策されました。この点については、古くからのDIY基板愛好家にとって大きな修整だと思います。
回路図エディタについてはこれらの項目以外に大きく問題視するべき修整は無かったかな?という印象です。
回路シミュレータとしてはまだまだお試し?
spiceシミュレータについても今回は2点の修整が実施されました。
この2点以外にもシミュレータの結果に影響するバグや注意して操作する点が沢山あります。今後、KiCadに搭載されているspiceシミュレータについても操作方法や注意点の解説を作っていく予定です。
「謎のDRCエラー」が多数解決したPCBエディタ
PCBエディタ(ボードエディタ)についても多数の修整が実施されています。
今回はDRC実施時のエラーや、再描画が正常に行われない点などの対策が複数みられます。特に円、円弧の図形データに対する各種エラーの修整が行われたことは個人的にも嬉しいです。
クラッシュする程の問題ではなかったのですが、設計上問題ない筈なのにDRCエラーが出るのでもうひと手間かけてデータを修整する、あるいはDRC結果を無視するといった作業がときどき発生していました。本来しなくてもよい作業工程が増えるのは設計ミスにもつながるリスクと考えられます。今回の修整実施はその成果が目立ちませんが、プリント基板を作る側としては有難いです。
ただし、今回の修整で少々気になったのが「コートヤードレイヤーの消失を対策しました」という項目です。
バージョン8.0.6でコミュニティに報告されていた事象で、PCBエディタの編集画面上から表面、裏面共にコートヤードレイヤーの項目が消失するという問題がありました。
これについては「完全に消失した」「ガーバープロットはできた」等症例がさまざまで、筆者が確認できる範囲の日本語版Windows環境下では再現性がなかったのですが、英語版環境では複数の報告があったようです。
通常、PCBエディタの画面上でコートヤードを単体で編集するシーンはまずないことから軽視されがちな問題ではあったのですが、過去に問題の多かったバージョンではレイヤーの表示ではなく
「設計データがガーバー出力されない」
という致命的なバグがある、という噂が挙がったことがありました。
当時も多数発生が報告された後に対策が実施され解決しましたが、レイヤーデータの取り扱いについて、開発チームは特に慎重に取り組んでほしいと強く希望するところです。
その他:3Dマウスへのサポートを強化
今回、その他の項目でちょっと気になったのが「3Dマウスをサポートしました」という修整レポートです。
3Dマウスとは名前が示す通り3D-CAD等3Dモデリングツール用に開発されたツールで、主に画面上に描画された3Dモデルの回転、拡大縮小、移動といった操作を行うためのマウスです。通常のマウスと併用して使用し、利き手で通常の編集操作、反対の手で3Dマウスを操作してモデルの視点操作を行う使い方が一般的です。
「プロの作業用マウス」として3Dconnexion社の製品群が有名で、国内でも多くのクリエイタや3D-CAD導入企業が採用しています。
プリント基板設計「だけ」に集中して考えると、正直、回路描画や基板設計に3Dマウスいる?という疑問しか生まれてきません。ですが、近年では3D-CADによる機構部や筐体設計と合わせて配線、基板形状などもシームレスに設計するという流れをデジタル設計のトレンドにしようと各社働きかけている動きもあります。なので、統合環境として今後3Dマウスを使用するスタイルが普及することもあるのかも知れません。
ここまで書いておきながら「EDAで使用するのって拡大縮小と画面スライドくらいだし、通常のマウス操作で網羅されてるよなあ」という疑問が全く頭から離れない筆者は、根本的に考えが古いのかも(苦笑)
今でも服飾で型紙のデータ化や、土木建築分野で測量図面をデータにするといった作業に用いられている装置に「デジタイザ」というものがあります。過去、製造業界にCADが普及し始めた頃には機械設計にもこのデジタイザと同様のシステムが導入されていました。手描きからデータに移行する作業だけでなく、ゼロからCAD描画を行う操作もデジタイザを使用しました。
当時もこのシステム環境に違和感を唱える人は多かったので、今後も続いていくであろう変化に対応できる人、出来ない人の境界は生まれ続けていくのでしょう。
システム安定化してきた?かな?
今回のバージョンアップではクラッシュ対策は比較的少なく、システムとしても安定してきたのかな?といった印象を受けました。
最近KiCadを始めた方、これから始めるという方は、ぜひ最新バージョンをダウンロードして挑戦して頂きたいと思います。
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