KiCad Ver 9.0.0リリース

KiCad 9.0.0がリリース!新機能と改善点を早速解説

オープンソースの電子設計自動化(EDA)ツールとして世界中のエンジニアが広く利用している「KiCad」の、最新のメジャーバージョン「KiCad 9.0.0」がリリースされました。

今回のアップデートでは多くの新機能が追加され、既存の機能も大幅に改善されたと報告されています。今回は、KiCad 9.0.0の変更点や新機能について解説したいと思います。


本題に入る前に、バージョン9の前日に公開された「Ver 8.0.9」って、はたして意味があったのだろうか?とつい考えてしまいます。

KiCad 9.0.0の概要

KiCad 9.0.0は、従来バージョンで報告されてきたバグ修正が反映され、より安定した動作を実現したと言われています。これまでのバージョン8から多くの機能強化が施されており、設計の自由度や作業の効率が向上しました。

リリースに伴い、KiCad 8の公式サポートは終了しました。今後はKiCad 9.xのバグフィックスバージョンが定期的にリリースされる予定です。

筆者もダウンロードした後、まだ本格的に使い込んではいませんが起動した後の第一印象は

「なんとなく動作が軽い」

と感じました。

ダウンロードとインストール

KiCad 9.0.0は公式サイトのダウンロードページから入手できます。ただし、発表直後である現時点では一部のパッケージがリリース途中である可能性があるとの注意コメントが出ているため、公式サイトの最新情報を確認しながら導入することが推奨されています。


KiCad 9.0.0の主な新機能

今回のバージョンでは、多くの新機能が追加されました。特に注目すべき改善点をいくつか紹介します。

1. ジョブセット機能の追加

KiCad 9.0.0では、「ジョブセット」と呼ばれる事前定義された出力ジョブ機能が追加されました。個々のエディタからエクスポートする手間を簡略化でき、バージョン管理や生成漏れなど設計ファイルをより効率的に出力、管理できるようになります。

ガーバーファイルや製造用データのエクスポートがワンクリックで行えるようになっています。

従来にない新しい機能なので使い勝手などこれからの機能ですが、一括出力を可能としたことで、設計データの管理が間違いなく容易になりました。

2. 埋め込みファイル機能

もう一つの大きな新機能は、「埋め込みファイル(Embedded Files)」機能です。この機能によって、外部ファイルに依存しない完全なKiCadプロジェクトを作成することが可能になりました。

これにより、プロジェクトのデータを一つのKiCadファイルに統合できるため、ファイル管理が簡単になり、チームでの作業やデータ共有がよりスムーズになります。

3. 公式ライブラリの強化

KiCad 9.0.0では、公式ライブラリが大幅に拡充されたことがコメントされています。

  • 新しいシンボル:約1,500個の新シンボルが追加
  • 新しいフットプリント:約750個の新しいフットプリントが利用可能
  • 3Dモデル:132個の新しい3Dモデルが追加

これにより、設計の選択肢が広がり、より詳細で精密なPCB設計が可能になったと言われていますが、

「旧バージョンで作成したライブラリデータとの互換性」

という問題が再燃する可能性もあり、新規ユーザーさんよりも継続ユーザーの方に注意を促しておきたい要素になっています。

4. ユーザーインターフェースの改善

KiCad 9.0.0では、ユーザーインターフェース(UI)も改良され、操作性が向上したとコメントされています。

  • メニューやアイコンのレイアウトが整理され、直感的な操作が可能に。
  • よりスムーズなズームやパン機能が追加され、PCB設計の細部調整が容易になった。
  • 設計ツールのレスポンスが向上し、大規模なPCBでもスムーズに編集できる。

公式コメントを要約すると上記のような内容になると思いますが、Ver 8シリーズを使ってきた人だと「え?なにか変わった?」と感じるくらいの微妙な違いだったりするところの方が多いです。


KiCad 9.0.0の導入メリットを考察

1. 設計時間の短縮

ジョブセット機能や埋め込みファイル機能を上手に使いこなすことによって、設計作業の効率化やスピードアップが期待できそうです。特にプロジェクトの出力やデータ管理が効率化されることで、複数のプロジェクトやリファクタリングの作業が多いエンジニアにとっては作業負担の軽減を図ることも可能になると思います。

2. データ管理の簡略化

埋め込みファイル機能を活用することで、外部ファイルに依存しない設計が可能になります。設計したプリント基板の関連情報や実装部品のデータシート、バージョン管理の手間が減少するでしょう。

ただし、プロジェクトフォルダ下に各種データを一括管理できる反面、作業するコンピュータ上に「同じファイルがプロジェクトファイルの数だけ存在する」という事態を引き起こす可能性もあります。この辺りはご自身のデータ管理方法とよく照らし合わせてみて利用の有無を検討した方が良さそうです。

3. 設計の精度向上

ライブラリの拡充やUIの改善により、導入初期の方でもより高品質なPCB設計が可能になることが期待できます。

確かにこれまでと比較しても大変充実したライブラリ構成になっているKiCad Ver 9.0.0ですが、やはり全世界の電子部品全てを網羅できている訳ではないので「初期設計がより楽になった」という認識でいた方が良いでしょう。

4. コミュニティとの連携強化

KiCadはオープンソースプロジェクトであり、多くの開発者や設計者が貢献しています。今回のバージョンアップも、世界中の貢献者の協力によって実現されています。

最新情報やフィードバックは、KiCadユーザーフォーラムでも確認できます。

当ブログも同様に、情報発信を続けてまいりますので宜しくお願いします。


まとめ

KiCad 9.0.0のリリースにより、電子回路設計を効率よく行う環境の確保がより容易に入手できるようになりました。特にジョブセット機能や埋め込みファイル機能は、チームや何らかのプロジェクト単位で設計作業を行う場合の負担軽減が狙える画期的な機能として期待しています。

今後もKiCadは進化を続け、より多くのエンジニアにとって使いやすいEDAツールへと進化を続けて行くでしょう。ぜひ、最新のKiCad 9.0.0を試してみてください!

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ABOUT US
KiCadの達人
KiCad歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCadの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。