PCBエディタでエクスポートできるファイル(4)

KiCadのPCBエディターで基板のレイアウト設計を行い、途中から他のEDAや3DCAD等にデータを引き渡して以降の設計作業を進めたいという場面があります。

今回はそういった場合に「エクスポート」可能なファイルの中から、特に3D-CADやCGに設計した基板の形状をデータとして活用できる、

「cmpファイル」

「Hyperlynx」

の2つについて解説したいと思います。

.cmpファイルとは

.cmp ファイルは、使用されるソフトウェアや業界によって異なる用途を持つファイル拡張子です。PCB設計(プリント基板設計)時の情報をまとめたファイルや、ソフトウェアの設定ファイルとして使用されることが多いです。


1. .cmp ファイルの主な用途


用途
説明関連ソフトウェア
① PCB設計(部品配置ファイル)プリント基板(PCB)の部品配置データを含むKiCad,EAGLE, Altium Designer, OrCAD など
② ソフトウェア設定ファイルアプリケーションの設定やコンパイル情報を保存SolidWorks, FreeCommander など
③ 3Dモデリング・シミュレーション3D設計データやコンポーネントの情報CATIA, NX, Creo など

上記のように、同じCADソフトウェアの.cmpファイルでもEDAでは製造用に生成するファイル、3DCAD等ではモデルの属性情報や設計データに使用するケースだけではなく、ソフトウェアの設定ファイルに使用する場合もあり注意が必要です。

2. PCB設計における .cmp ファイル(部品配置ファイル)

  • EDA(電子設計自動化)ツールにおいて.cmp ファイルは、PCB上の部品配置情報を含むテキストファイルで使用されます。
  • 部品のXY座標・回転情報などが記述されたテキストデータになっていて、製造工程や基板の検査で利用されています。

📌 主なデータ内容

項目説明
部品名コンポーネントの識別名(例: R1, U2)
座標(X, Y)PCB上の配置位置
回転角度0°, 90°, 180°, 270° など
面情報トップ(表)またはボトム(裏)

📌 例: .cmp ファイルの内容(EAGLE,位置情報出力時)

# Component Placement File
# Name   X       Y       Rot  Side
U1       10.25   15.40  

📌 例: .cmp ファイルの内容(KiCad)

上記の通り、.cmpファイルの記述内容はEDAの種類によって異なります。KiCadの場合、位置情報はposファイルとして別に生成されます。

「HyperLynx」とは?

HyperLynx(ハイパーリンクス)は、Siemens EDA(旧Mentor Graphics)が提供する高速通信回路設計・信号解析用のシミュレーションツールです。主にPCB(プリント基板)設計におけるSI(Signal Integrity)、PI(Power Integrity)、EMC/EMI解析を行うために使用されます。

KiCadにもspiceシミュレータが搭載されてはいますが、本格的な評価・解析を行うには力不足な所もあります。そういう時に高機能なツールにデータを引き渡せるように、PCBエディターからこのシミュレーションツールに読み込ませるファイルがエクスポートできます。


1. HyperLynxの基本情報

項目内容
開発元Siemens EDA(旧Mentor Graphics)
主な用途PCBの信号解析・電源解析・EMI対策
対応解析SI(信号品質)、PI(電源品質)、EMC/EMI(ノイズ解析)
使用業界電子機器・半導体・通信・自動車・航空宇宙など

2. HyperLynxの主な機能

🔹 ① SI(Signal Integrity:信号品質解析)

✔ 高速デジタル回路の信号波形を解析し、リフレクション・オーバーシュート・クロストークなどを検出
DDR, PCIe, USB, HDMI などの高速バスのシミュレーション
✔ タイミングマージン、ビアの影響、伝送線路のインピーダンス解析

🔹 ② PI(Power Integrity:電源品質解析)

✔ PDN(Power Distribution Network)の解析による電圧降下やノイズ評価
コンデンサの最適配置による電源の安定化
✔ 過渡応答解析(Transient Simulation)による電圧変動の確認

🔹 ③ EMI/EMC解析(電磁ノイズ解析)

✔ PCB設計段階で放射ノイズ・電磁干渉を評価
ノイズ源の特定対策(GNDプレーンの最適化・フィルタ設計など)
規格適合テスト(CISPR, FCC, MIL-STD など)に向けた解析

🔹 ④ 3D電磁界解析

✔ 3Dフィールドソルバーを用いた高周波回路やアンテナ設計の電磁界解析
✔ PCBのGNDプレーン設計やビアの影響解析


3. HyperLynxの導入で獲得できるメリット

設計初期段階でSI/PI/EMCの問題を発見 → 設計品質向上
試作回数の削減 → コスト削減
使いやすいGUI → 初心者でも解析が可能
他のEDAツールとの高い互換性(PADS, Xpedition, Altium, Cadence, Zuken など)


以上のようなメリットがあります。ただし、KiCadのように無償利用できるソフトウェアではありません。フリーランサーや副業、在宅ワークなどでKiCadを使用している方の場合、HyperLynxを導入している部署にデータを提出するためにファイル生成を行うという場面が大半だと思います。

4. 最新の高速動作回路設計に威力を発揮するHyperLynx

HyperLynxは、PCB設計の信号品質・電源品質・ノイズ対策を行うための強力なシミュレーションツールです。特に高速回路設計(DDR, PCIe, USB, HDMIなど)で使用すると、設計の初期段階での問題の検出が容易になり、試作回数を抑えることによる開発コスト削減が期待できます。

📌 例: .hyp ファイルの内容(KiCad)

HyperLynxは多くの回路設計を行う企業で導入されているソフトウェアなので、機会があればKiCadとのデータ連動はキチンとまとめて記事にできたら、と検討しています。

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ABOUT US
KiCadの達人
KiCad歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCadの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。