KiCadのPCBエディターで基板のレイアウト設計を行い、途中から他のEDAや3DCAD等にデータを引き渡して以降の設計作業を進めたいという場面があります。
今回はそういった場合に「エクスポート」可能なファイルの中から、特に3D-CADやCGに設計した基板の形状をデータとして活用できる、
「cmpファイル」
「Hyperlynx」
の2つについて解説したいと思います。

.cmpファイルとは
.cmp
ファイルは、使用されるソフトウェアや業界によって異なる用途を持つファイル拡張子です。PCB設計(プリント基板設計)時の情報をまとめたファイルや、ソフトウェアの設定ファイルとして使用されることが多いです。
1. .cmp
ファイルの主な用途
用途 | 説明 | 関連ソフトウェア |
---|---|---|
① PCB設計(部品配置ファイル) | プリント基板(PCB)の部品配置データを含む | KiCad,EAGLE, Altium Designer, OrCAD など |
② ソフトウェア設定ファイル | アプリケーションの設定やコンパイル情報を保存 | SolidWorks, FreeCommander など |
③ 3Dモデリング・シミュレーション | 3D設計データやコンポーネントの情報 | CATIA, NX, Creo など |
上記のように、同じCADソフトウェアの.cmpファイルでもEDAでは製造用に生成するファイル、3DCAD等ではモデルの属性情報や設計データに使用するケースだけではなく、ソフトウェアの設定ファイルに使用する場合もあり注意が必要です。
2. PCB設計における .cmp
ファイル(部品配置ファイル)
- EDA(電子設計自動化)ツールにおいて
.cmp
ファイルは、PCB上の部品配置情報を含むテキストファイルで使用されます。 - 部品のXY座標・回転情報などが記述されたテキストデータになっていて、製造工程や基板の検査で利用されています。
📌 主なデータ内容
項目 | 説明 |
---|---|
部品名 | コンポーネントの識別名(例: R1, U2) |
座標(X, Y) | PCB上の配置位置 |
回転角度 | 0°, 90°, 180°, 270° など |
面情報 | トップ(表)またはボトム(裏) |
📌 例: .cmp
ファイルの内容(EAGLE,位置情報出力時)
# Component Placement File
# Name X Y Rot Side
U1 10.25 15.40
📌 例: .cmp
ファイルの内容(KiCad)

上記の通り、.cmpファイルの記述内容はEDAの種類によって異なります。KiCadの場合、位置情報はposファイルとして別に生成されます。
「HyperLynx」とは?
HyperLynx(ハイパーリンクス)は、Siemens EDA(旧Mentor Graphics)が提供する高速通信回路設計・信号解析用のシミュレーションツールです。主にPCB(プリント基板)設計におけるSI(Signal Integrity)、PI(Power Integrity)、EMC/EMI解析を行うために使用されます。
KiCadにもspiceシミュレータが搭載されてはいますが、本格的な評価・解析を行うには力不足な所もあります。そういう時に高機能なツールにデータを引き渡せるように、PCBエディターからこのシミュレーションツールに読み込ませるファイルがエクスポートできます。
1. HyperLynxの基本情報
項目 | 内容 |
---|---|
開発元 | Siemens EDA(旧Mentor Graphics) |
主な用途 | PCBの信号解析・電源解析・EMI対策 |
対応解析 | SI(信号品質)、PI(電源品質)、EMC/EMI(ノイズ解析) |
使用業界 | 電子機器・半導体・通信・自動車・航空宇宙など |
2. HyperLynxの主な機能
🔹 ① SI(Signal Integrity:信号品質解析)
✔ 高速デジタル回路の信号波形を解析し、リフレクション・オーバーシュート・クロストークなどを検出
✔ DDR, PCIe, USB, HDMI などの高速バスのシミュレーション
✔ タイミングマージン、ビアの影響、伝送線路のインピーダンス解析
🔹 ② PI(Power Integrity:電源品質解析)
✔ PDN(Power Distribution Network)の解析による電圧降下やノイズ評価
✔ コンデンサの最適配置による電源の安定化
✔ 過渡応答解析(Transient Simulation)による電圧変動の確認
🔹 ③ EMI/EMC解析(電磁ノイズ解析)
✔ PCB設計段階で放射ノイズ・電磁干渉を評価
✔ ノイズ源の特定と対策(GNDプレーンの最適化・フィルタ設計など)
✔ 規格適合テスト(CISPR, FCC, MIL-STD など)に向けた解析
🔹 ④ 3D電磁界解析
✔ 3Dフィールドソルバーを用いた高周波回路やアンテナ設計の電磁界解析
✔ PCBのGNDプレーン設計やビアの影響解析
3. HyperLynxの導入で獲得できるメリット
✅ 設計初期段階でSI/PI/EMCの問題を発見 → 設計品質向上
✅ 試作回数の削減 → コスト削減
✅ 使いやすいGUI → 初心者でも解析が可能
✅ 他のEDAツールとの高い互換性(PADS, Xpedition, Altium, Cadence, Zuken など)
以上のようなメリットがあります。ただし、KiCadのように無償利用できるソフトウェアではありません。フリーランサーや副業、在宅ワークなどでKiCadを使用している方の場合、HyperLynxを導入している部署にデータを提出するためにファイル生成を行うという場面が大半だと思います。
4. 最新の高速動作回路設計に威力を発揮するHyperLynx
HyperLynxは、PCB設計の信号品質・電源品質・ノイズ対策を行うための強力なシミュレーションツールです。特に高速回路設計(DDR, PCIe, USB, HDMIなど)で使用すると、設計の初期段階での問題の検出が容易になり、試作回数を抑えることによる開発コスト削減が期待できます。
📌 例: .hyp
ファイルの内容(KiCad)

HyperLynxは多くの回路設計を行う企業で導入されているソフトウェアなので、機会があればKiCadとのデータ連動はキチンとまとめて記事にできたら、と検討しています。
コメントを残す