PCBエディタでエクスポートできるファイル(1)

KiCadのPCBエディターで基板のレイアウト設計を行い、途中から他のEDAや3DCAD等にデータを引き渡して以降の設計作業を進めたいという場面があります。

今回はそういう時に実施する「エクスポート」できるファイルの中から、

「Specctra DSN」

「GenCAD」

の2つについて解説したいと思います。

「Specctra DSN」とは

Specctra DSN(Design Standard Netlist)は、主に電子回路設計(特にプリント基板設計)で使用されるファイルフォーマットの一つです。これは、Cadence AllegroやOrCADといった有名なEDA(Electronic Design Automation)ツールやSpecctra auto-routerのような自動配線ツールの間でデータをやり取りするために使われ、KiCadも対応しています。

Specctra DSNの概要

  1. 役割
    • 回路設計データの保存:ネットリスト(部品と接続情報)、配線制約(ルール)、PCBレイアウトの情報などが含まれます。
    • 設計データの交換:最近ではEDA間のネットリストという位置づけ以上に、EDAツールと自動配線ツールの間でデータをやり取りするファイル形式、という方で知名度が高いとも言えます。
  2. 主な用途
    • 手動・自動ルーティング:自動配線ツール(Specctra auto-routerなど)に渡して、配線作業の高速化、最適化などに活用します。
    • 設計制約の適用:配線のルールやレイヤーの使用制約などをファイル内で定義できるので、読み込むEDAごとに制約がばらつくことを防止する効果が期待できます。
    • デザインルールの検証:異なるEDAで設計されたデータでも、DSNファイル内の情報をもとにして、設計ルールチェック(DRC)を実行可能になります。
  3. 関連ファイル
    • DSNファイル(.dsn):回路のネットリストや制約情報を格納。
    • Doファイル(.do):Specctra auto-routerのスクリプトファイル(配線ルールや制御コマンドを記述)。
    • SESファイル(.ses):配線結果を保存するファイル(Specctra auto-routerの出力)。

Specctra DSNの使用例(OrCADを例にした作業フロー)

  1. OrCADで回路設計を行う
  2. DSNファイルをエクスポート
  3. Specctra auto-routerで自動配線
  4. SESファイルをOrCADにインポート
  5. 最終的なレイアウト調整とDRCの実施

KiCadでもほぼ同様のフローで、配線作業の半自動化が可能です。

Specctra auto-routerと同等の機能がKiCadに統合される可能性についても期待したいと思いますが、現在、統合環境ではSpecctra DSNの使用は減少傾向にあるとも言われています。しかし、一部の企業や設計者は、今でもDSNファイルを利用して自動配線ツールと連携させているので、在宅ワーク等で回路設計を行う人は、「Specctra DSN」ファイルのエクスポートをすることも一定数有りそうです。

「GenCAD」とは

GenCADの概要

GenCAD(Generic Computer-Aided Design)は、電子回路基板(PCB)の設計データを交換するための標準フォーマットの一つです。特に、DFM(製造性設計)やDFT(テスト性設計)、自動光学検査(AOI)やICT(インサーキットテスト)向けに使用されることが多いです。


1. GenCADの目的と特徴

📌 目的

  • 製造と検査のための標準データフォーマット
  • EDA(Electronic Design Automation)ツール間のデータ互換性を向上
  • 製造工程(SMT、AOI、ICTなど)の最適化

🔹 特徴

  • ASCII形式(テキストベース)
    • 可読性が高く、スクリプトやプログラムで処理しやすい
  • 設計データを統一的に記述できる
    • ネットリスト、部品配置、層構成(レイヤー)、テストポイント情報などを含む
  • 設計・製造・検査の橋渡し
    • PCBデータを製造業者やテストエンジニアと簡単に共有できる
  • バージョン管理(GenCAD 1.4, 1.5, 1.6など)
    • 最新版では、より多くの設計情報をサポート

2. GenCADの主な用途

🔹 ① DFM(Design for Manufacturability)

  • PCB設計を製造しやすい形に最適化
  • SMT(表面実装技術)やスルーホール実装の情報を含む

🔹 ② DFT(Design for Testability)

  • ICT(インサーキットテスト)用のテストポイント情報を含む
  • **フライングプローブテスト(FPT)**やAOIのためのデータ作成

🔹 ③ EDAツール間のデータ変換

  • PCB設計ツール(Altium, Cadence, Mentor, Zukenなど)からのデータ出力
  • 各種製造ツールやテストツール(TestExpert, Fabmasterなど)での利用

3. GenCADの主なデータ構成

GenCADファイルはASCII(テキスト)形式で、以下のような情報を含みます。

セクション内容
COMPONENTS部品情報(座標、型番、向きなど)
NETSネットリスト(配線情報)
PINS各部品のピン情報
LAYERSPCBの層構成(レイヤー情報)
TESTPOINTSICTやAOI用のテストポイント情報
MECHANICALボードの形状や穴、基準点の情報

4. GenCADの関連フォーマット

フォーマット名用途
ODB++製造用フォーマット(より多くの情報を含む)
GerberPCB製造データフォーマット(パターン情報のみ)
IPC-2581次世代標準フォーマット(3D情報も扱える)
GenCAMGenCADの後継として開発されたフォーマット

5. GenCADの利点と課題

✅ 利点

汎用性が高い(多くのCAD/EDA/製造ツールでサポート)
検査工程(ICT, AOI, FPT)に最適
可読性が高く、カスタムスクリプトで処理しやすい

⚠ 課題

3D情報が含まれない(ODB++やIPC-2581の方が適している)
EDAツールごとに出力形式が異なる場合がある

最近流行の3D設計用の情報が含まれておらず、EDAツール毎に出力情報に違いがあるというのは、中間ファイルとして使用するには少々問題があると言わざるを得ません。

後工程の検査ツールや製造設備用にファイル生成を求められたら、まず念入りに互換性やデータ内容を確認してからデータの受け渡しを行うようにしてほしいと思います。

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ABOUT US
KiCadの達人
KiCad歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCadの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。