PCBエディタでエクスポートできるファイル(2)

KiCadのPCBエディターで基板のレイアウト設計を行い、途中から他のEDAや3DCAD等にデータを引き渡して以降の設計作業を進めたいという場面があります。

今回はそういった場合に「エクスポート」可能なファイルの中から、

「VRML」

「IDFv3」

の2つについて解説したいと思います。

VRML(Virtual Reality Modeling Language)とは?

VRML(バーチャル・リアリティ・モデリング・ランゲージ)は、3Dオブジェクトや仮想空間内のモデルを記述するために定められた標準フォーマットの一つです。主に、Web上でインタラクティブな3Dコンテンツを表示することを目的に開発されました。


1. VRMLの概要

📌 基本情報

  • 名称:Virtual Reality Modeling Language
  • 拡張子.wrl(「World」ファイルと呼ばれることがあります)
  • 開発時期:1994年にVRML 1.0が登場、後にVRML 2.0(またはVRML97)として改良されました
  • テキスト形式:プレーンテキストで記述されるため、CADやモデリングツールからエクスポートできるほか、各種テキストエディタから直接編集することも可能です

2. VRMLの特徴

🔹 ① 3Dオブジェクトの記述が可能

VRMLファイルは、ポリゴン(頂点・面)やオブジェクトの位置・色・テクスチャ・ライティングなどの3D情報を記述できます。KiCadでエクスポートしたファイルにもこれらの情報が記載されていますが、プリント基板設計に重要ではない項目については簡易な設定のみに限定されています。

🔹 ② Webブラウザで3D表示が可能(ただし注意事項あり)

専用のVRMLプラグイン(Cosmo Player など)をインストールすれば、ブラウザ上で3Dコンテンツを表示可能になります。
ただし、現在はWebGLやglTFが主流になったこともあり、VRMLの使用頻度は少なくなり現在ではブラウザ使用は非推奨と言われています。


3. VRMLの基本構造

VRMLファイルはツリー構造で記述され、各オブジェクトのプロパティ(座標、色、形状など)が定義されています。

🔹 VRMLの基本コード例

#VRML V2.0 utf8

Shape {
  appearance Appearance {
    material Material {
      diffuseColor 1 0 0  # 赤色
    }
  }
  geometry Box { size 1 1 1 }  # 1x1x1 の立方体
}

👆 このコードは、赤い立方体(Box)を定義するシンプルなVRMLファイルになっています


4. VRMLのバージョン

バージョン発表年特徴
VRML 1.01994年静的な3Dシーンを記述可能(インタラクションなし)
VRML 2.0(VRML97)1997年アニメーション・スクリプト対応、インタラクション機能追加

VRML 2.0 では、イベント駆動型のプログラムが可能になり、動的なコンテンツの作成が容易になりました。

IDFv3(Intermediate Data Format Version 3)とは?

IDF(Intermediate Data Format)は、PCB(プリント基板)設計と筐体設計(メカ設計)間でデータをやり取りするために作られた標準フォーマットです。IDFv3は、その第3世代のバージョンで、より詳細な設計情報を含むことができます。


1. IDFの基本情報

📌 IDFとは?

  • 正式名称:Intermediate Data Format
  • 主な用途PCBデータを3D CADソフトに渡す
  • 開発の目的:電子設計(EDA)と機械設計(CAD)の連携をスムーズにする
  • ファイル構成
    • ボードファイル(.brd) → PCBの形状、層構成、部品配置
    • ライブラリファイル(.lib) → 各部品のサイズや形状情報

2. IDFv3の特徴と改良点

🔹 ① IDFv2 からの改良

特徴IDFv2IDFv3
部品情報部品のXY座標と回転情報のみ3D形状情報(高さ、パッド情報)も含む
レイヤー情報シンプルな基板レイヤー構成詳細なレイヤー構成が可能
メカ情報筐体設計との連携が弱いより高度な3D CADとの統合が可能

🔹 ② 主な特徴

部品の3D形状を定義可能(高さ、ボディサイズ、ピン情報など)
詳細なPCBレイヤー情報(多層基板の設計に対応)
メカ設計ソフト(SOLIDWORKS, Creo, CATIA など)との高い互換性
EDM(Engineering Data Management)やDFM(Design for Manufacturability)に適用可能


3. 重要性を取り戻してきたIDFファイル

一時期は「プリント基板の形状が分かる3DモデルをSTEPファイルで渡せばよい」という考えが強まり、機械設計と回路設計の間を取り持つIDFファイルへの関心度が低下したこともありました。

3D-CADの機能向上に伴い、コネクタやインジケータの表示位置、配線のクリアランス等を直接機械CAD上で修整することによって、機器開発全体の設計効率を上げていく流れが広まってきており、再びIDFファイルでのやり取りが重要視される傾向があります。

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KiCadの達人
KiCad歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCadの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。