KiCadを含むEDAで設計可能なプリント基板は、用途や製造方法に応じて、さまざまな種類が存在します。
これらのプリント基板=PCBまたはPCBAは、それぞれの特性をよく理解して、適切な用途選択と設計をすることで、我々の生活に役立つ多様な電子機器を生み出します。
今回は特に耐熱、耐強度が必要な部位に用いられる「アルミ基板」について解説したいと思います。
「アルミ基板」とは?
アルミ基板は一般的なプリント基板と同様に、家電をはじめ多くの電気機器に使用されていますが、近年では特にLEDを使用した照明機器やポータブルバッテリー等のパワーサプライ、スマートフォンや小型コンピュータの制御基板などに使用されています。
たとえばLED照明はその消費電力の少なさで電球や蛍光灯の代替として普及しています。しかし、省電力で光を発する代わりに、LEDや制御回路が実装されている電子回路部分はかなりの熱を発生する点は見落とされがちです。
また、スマートフォンやモバイルコンピューターといった電子機器の高性能化、高密度化が進んだことで、搭載されるプリント基板は部品から発生する熱を効率的に放熱できずに回路が劣化し、電子機器の故障や著しい寿命の低下につながることが新たな課題とされています。
熱を逃がす工夫が、これまで以上にこれらの回路設計には求められています。
通常の基板に使用されているFR-4等の樹脂を実際に放熱板などにも用いられる金属素材に置き換えることで放熱性を確保し、生じる熱から部品や電気機器を守るためにアルミ基板が開発されました。
放熱目的として基材に鉄や銅を使用する場合もありますが、コストやその他の理由で現在はアルミを基材に使用する方法が一般的になっています。
アルミ基板の構造
一般的なプリント基板はガラスエポキシや紙フェノールなどが基材として使われていますが、アルミ基板はこの基材にアルミを使用しています。
従って、アルミ基板の場合も基本的な樹脂基材のそれと同じ構造をしています。
アルミ基板は、基材アルミニウムの薄板があり、上に絶縁層、銅箔の回路層の順に構成されていき、表面には保護層を持った構造をしています。
リジッド基板と同様に、アルミ基板でも片面基板、両面基板、多層基板が製作できますが、用途によって通常の基材の両面に積層する方法と、基材の片面だけに全て集中して積層する方法がありますので注意して下さい。
アルミ基板のメリット
1)優れた熱伝導性
アルミ基板は熱伝導性を通常よりも高く確保でき、発熱量の多い電子部品から効率的に熱を拡散させる設計が可能になります。これにより、個別のヒートシンクや冷却ファンなどの実装が難しい部位でも部品の過熱や熱損傷のリスクを軽減できます。
アルミ基板の放熱特性はガラスエポキシ基板と比較して約5倍と高いため、高密度で大電力を扱う製品の電子回路には、製造各社とも積極的にアルミ基板を採用しています。
2)高い耐電圧性と機械的強度
アルミ基板は樹脂基板と比較して、高い電圧が加わっても絶縁層を破壊することがない、高い耐電圧特性を付与できます。また、アルミ等金属素材は丈夫で耐久性を高められるので、機械的ストレスにも優れた強度を確保できます。
曲げや衝撃に対する耐久性が高い回路基板が製造可能になるので、持ち運ぶタイプの機器や車載回路、ドローンなどの制御部分といった物理的に過酷な環境での使用に適しています。
アルミ基板のデメリット
1)製造コストが高い
アルミ基板は一般的なFR4基板と比較して製造コストが高くなります。特に、設計や製造に特別な加工や作業工程が必要となる場合はコストの差が更に広がります。
2)加工の難しさ
設計段階ではあまり意識されることが少ないデメリットですが、アルミ基板の加工はFR4基板に比べて難しく、穴開けやエッチングなどの工程がより複雑で時間がかかります。
工程が多く時間がかかる分だけ、製造コストについては割高になります。また、実際に機械部品としても用いられる素材でもあるアルミニウムなので、業者によっては自社内で加工できない場合もありますので、試作や生産発注を行う前に、事前確認しておくことが大事です。
3)電気絶縁性が低い
先にメリットとして絶縁層の破壊に対して強い点を挙げましたが、そもそもアルミその他の金属は導電性を有しているため、基板設計時には絶縁材料の配置を考慮した設計を行う必要があります。これにより、設計の自由度が制限される場合があります。
以上のようなメリット・デメリットが挙げられるアルミ基板ですが、これらの項目以上に基板製造業者の方々が口を揃えて注意して欲しいと言っている点があります。
それが「はんだクラックが発生しやすい」という注意点です。
はんだクラック発生の原理
クラックとは「亀裂」のことで、はんだ接合後に、基板と電気部品を接合するはんだに亀裂が入り割れる現象を指します。電子回路における半田クラックは動作不良や故障の原因となり、製造工程時の不良以外では、運用中に生じる基板の熱による膨張収縮がクラック発生の原因として挙げられています。
また、環境に配慮した鉛フリーはんだの使用が広く行われていますが、この鉛フリーはんだは従来のものと比較してクラックが発生しやすいことも知られています。
電子回路に通電することで電子機器は大なり小なり熱を発生します。基板に搭載されている部品の仕様によって発熱量は異なりますので、基板の表面で発生する熱は均一にはなりません。部位ごとにムラがある状態で発生した熱が基板に伝わります。
アルミなどの金属は熱が加わると膨張、冷めると収縮します。アルミ基板表面に生じた温度差によって基板のベース材が部分的に膨張または収縮することで微細な歪みを生じ、歪みが生じた部分に実装されている電子部品のはんだ接合部にストレスが加わることになります。
このストレスが繰り返し加わることで亀裂=はんだクラックは発生します。
アルミ基板を必要とする電子回路ということは、注意が必要な発熱源が存在する回路なはずです。設計時には放熱の問題にも充分配慮をしながら作業を進めることが重要です。
KiCad PCBエディターの設定他
実際にKiCadでPCBレイアウトを設計する際も、基本的には通常のプリント基板を設計する手順と同じ手法で進めれば大きな問題はありません。
また、レイアウトエディターの「基板の設定」では基材の両面に等しく積層する方法でしか設定できません。先に述べたような「基材の片面に集中して積層する」方式の設定はできませんので、発注時に意識できるよう「基板編集レイヤー」の項目で名称を変更するなどして対応して下さい。
また、KiCadの導体層は両面基板が前提となっているため、導体層数は一般的な「2の倍数」になっています。アルミ基板で「基材の片面に集中して積層する」方式の場合、3相や5層といった「奇数の導体層」による製造も可能になりますので、必要な場合はチャレンジしてみて下さい。
製造データにDXFを加える
レイアウト設計が終わって製造データを出力する場合も、通常通りのガーバー出力で大体の業者は対応してくれます。
ですが、基材が薄板ではない場合や機械的な形状をしたアルミ板の上に導体層を形成する場合などは、外形加工に機械部品を加工するようなCNCフライスを用いる場合があります。
このときはガーバーと同じように「プロット」メニューから必要なレイヤーを選択し、出力フォーマットを「DXF」に変更します。
このとき加工用データとして出力する場合は、ウィンドウ右下の「DXFオプション」の項目に変更を加えます。
まず「外形線を使用してグラフィック アイテムをプロット」のチェックを外します。
このチェックを外すと外形線の座標に合わせた1本の線を描くようにDXFが生成され、切削加工データの変換が容易に行えます。
チェックを入れたまま出力すると、外形データも銅箔部分等と同じように配線幅で並んだ2本の線で外形データも描かれます。加工用データとして使用するためには更なる編集が必要となってしまいますのでチェックを外すのを忘れないで下さい。
DXFオプションの右端、エクスポート単位についても注意しておきましょう。
標準設定では「inch(インチ)」で設定されています。mm(ミリメートル)単位でデータを生成したいときは単位を変更して下さい。
以上の設定に注意しながら出力するDXFデータが用意できれば、本格的なアルミ基板の設計、試作を自在に行えるようになります。
機会があったらぜひ挑戦してみましょう。