今回は「PCBエディター」を使用する前に行う基板セッティングについての後編となります。
多層基板やより踏み込んだPCB設計を行うために、基板セットアップのメニューはしっかり覚えて使いこなせるようになりましょう。
では、PCBエディターの基板の設定「デザインルール」の項目から解説を進めて行きたいと思います。
デザインルールチェックの設定項目
最初は「制約」の項目です。
この画面では、主に配線やビアのサイズ、クリアランスの最小設定値を変更できます。KiCadでは一般的な基板設計に適した寸法が初期値として登録されていますが、高密度実装などに対しては少々大きめの値になっています。必要に応じて設定を変更して下さい。
配線幅などを決める「定義済みのサイズ」
次の項目は「定義済みのサイズ」になります。
後述しますが、KiCadの配線、ビア、作動ペアのサイズについては、それぞれにデフォルト値が設定されています。
PCBエディターで配線を描き、ビアを設置してから、上画像のようにプロパティを開いて変更しても良いのですが、本項目であらかじめ複数種類の設定を登録しておくことで、編集作業の効率向上が望めます。
なお、デフォルト設定の値がなぜかこの項目に反映されないことに少々不便を感じますが、この仕様はかなり前のバージョンからずっと変わらないので、今後の改善も期待薄かも知れません。
ぜひ活用したい「ティアドロップ」
次の項目は「ティアドロップ」です。
Ver.5シリーズの頃はPythonプラグインで外部から追加する機能として人気だったティアドロップ機能も、KiCad標準設定として実装されています。
「ティアドロップできないCADはEDAじゃない」と言われる方もいらっしゃるくらいに広く使用される機能だったので、安定して実装されるようになり一安心です。
はんだ付け、表面実装の各パッドに対する設定と、太さが異なる配線間の設定の3項目について形状の設定ができるようになっています。
ティアドロップ形状は、配線端部のひび割れや成形不良による不具合防止にも効果的ですので、積極的に活用することをお勧めします。
高速通信回路設計に不可欠な「配線長の調整パターン」
次の項目は「配線長の調整パターン」です。
プリント基板上では、信号のタイミングと正確さを保つために配線長の調整が必要になる場合があります。複数の異なる配線長は、非常に微小な差ではありますが信号の伝達時間にずれを生じさせます。人間には知覚できないレベルのズレですが、電子回路の処理においてはタイミングエラーやデータの不整合を引き起こす原因となる場合があります。特に高速通信などにおける信号の処理では、配線長が異なると信号に「スキュー」と呼ばれる歪みが発生し、デジタル回路の正確な動作に悪影響を与えるリスクが高まります。このリスクを回避し信号の伝達時間を揃えるために、プリント基板上の配線長を調整することが重要になります。
各種調整時の形状パターンごとに、振れ幅、間隔、曲げ半径の値を設定できます。
設計作業の効率を上げる「ネットクラス」
次は「ネットクラス」です。
画面を開くと、上部にデフォルト設定の線幅、ビアサイズ等の値が表示されています。最初に画面上部の「ネットクラス:」欄の+ボタンを押して、ネットクラスを追加します。
正直に言うと、この項目については旧バージョンの設定画面の方が便利だったな、と思っています。
追加された項目はデフォルト設定のコピーになっているので、ネットクラスの名称、配線幅など必要な項目の値を変更します。
今回は配線幅だけが異なるネットクラスを2つ作っておきます。
次に、下段の「ネットクラスの割り当て」欄の+ボタンを押して項目を追加します。
「パターン」の欄に割り当てたいネットクラス名を入力して回路内の候補を探すのですが、通常は入力した文字と一致するネット名しか検索してくれません。これは大文字小文字も区別されるため、文字通り完全一致したネット名を入力する必要があります。
いくつか前の旧バージョンでは、PCBエディターに回路図の情報(=ネットリスト)を読み込んであれば、画面右側にネット名が自動的に一覧で表示され、そこから選択可能であり、とても便利だったので、公式開発チームには是非改良というか元に戻してほしい点ではあります。
ただ、完全一致する情報を入れなくても「*(アスタリスク)」1文字をネット名の項目に入力すると、右側のネット名候補の欄に現在読み込んでいる回路のネット名を全て表示できるので、従来に近い感覚でネットクラス選定が可能になります。
「現在はエクスプローラーや検索でアスタリスクを使うのは当たり前」という意見もありますが、設計効率の点からみると、既に読み込んでいるはずのネットリストの情報が標準で表示されない=各所に連携して活用されていないのは、些細なひと手間ではありますが少々首をかしげる所ではあります。
PCB設計に重要なデザインルールチェック各項目
次の項目「カスタムルール」は、デザインルールチェック(DRC)の検査項目をカスタマイズするために使用します。
カスタマイズ用の構文は、ヘルプ表示で詳細が説明されています。
ある程度プログラミングのスキルがあって、チェック項目のカスタマイズが必要な方は挑戦してみて下さい。
最後の項目は「違反の深刻度」を選択する画面です。
プリント基板のレイアウト設計に対するデザインルールチェック(DRC)を実行するさいの、各項目についてどの程度の深刻度として表示するかを設定します。
各深刻度は、異常として以降の処理を制限する「エラー」、メッセージは表示するがガーバー出力等以降の処理は実行できる「警告」、問題と認識しない「無視」の3段階です。
KiCadの標準設定では、「エラー」については基板製造時に回路や製造工程に深刻な影響を起こす恐れがある項目が選択されています。なので「警告」項目について「無視」するか、あるいは現在「無視」されている項目について「警告」表示するかを設定するという使い方が主になると思います。
「基板の設定」は設計途中でも追加、変更可能
以上のように、PCBエディターの「基板の設定」項目について前後編に分けてご紹介しました。
基板の設定については設計途中でも追加、変更が可能です。ただし、設計途中での設定変更は、既に使用されたレイヤーや配線が済んでいる部位に関しても影響を与えます。可能な限りプリント基板のレイアウト設計を開始する前段階で設定を実施してからアートワークに着手することをお勧めします。
そして、更なる詳細については各項目をもっと掘り下げていくことになりますので、機会を見て順次解説していきたいと考えています。
これらの設定と回路図エディターのデータを基にして、PCBエディターを使ってプリント基板の配置設計、アートワークを実施して行きましょう。
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