基板を作ろう「導入・FPC設計編」

KiCadは、電子回路設計のためのオープンソースのEDA(Electronic Design Automation)ソフトウェアです。回路図の作成からプリント基板(PCB)の設計、さらには3Dビューワによる基板の視覚化まで、電子回路設計に必要なツールを一式揃えています。

プリント基板の種類

EDAで設計できるプリント基板(主にPCB)は、電気回路の配線を支えるために使用される基幹部品で、それぞれの種類は用途や製造方法に応じて区分され、目的に特化した異なる特性を持っています。

以下に主要なプリント基板の種類とその特徴をいくつか挙げてみます。

リジッドPCB(Rigid PCB)

硬い材料で作られたPCBで、耐久性があり、安定した構造を提供します。

一般的にプリント基板と呼ばれる代表的なもので、後に紹介するフレキシブルPCBとは対照的に曲げることはできません。

用途としてはコンピュータ、テレビ、カメラといった家庭用電化製品から産業機器に至るまで、電子機器と呼ばれる器具の大半に使用されています。

フレキシブルPCB(Flexible PCB/FPC)

柔軟なポリイミドやポリエステルフィルムを基材として使用したフィルムの表面に回路を形成することで、基板に曲がる特性を持たせています。

当初は極薄の電線の代用品として用いられましたが、小型化、高密度化が進む最新の電子機器開発において狭いスペースや曲面にも回路を設置可能になるため、現在では計量薄型のスマートフォンやノートパソコンなどに使用されています。軽量かつ耐久性があるのが特徴ですが、リジッドPCBと比べると熱に弱かったり、高密度回路の形成には不利だったりという課題もあります。

アルミ基板(Metal Core PCB、Aluminum PCB)

基板の一部または全部がアルミニウムなどの金属でできており、特に熱伝導性に優れていることから熱の発生が顕著な高輝度LEDやパワー半導体を用いた大電力デバイスの回路形成に適しています。

用途としてはLED照明、パワーコンバーター、高出力電源、モーター制御装置などに用いられています。

一般的なリジッドPCBはその基材が樹脂であることが多いのですが、アルミ基板は基礎部分が金属なので、放熱目的以外に機械的性能を付与するような設計手法に用いられることもあります。

これらのPCBは、それぞれの特性を活かし、さまざまなエレクトロニクス製品やデバイスに応用されています。設計や用途に応じて適切なタイプを選択することが重要です。

フレキシブル基板を設計する際の注意点

前置きが長くなりましたが、今回はフレキシブルPCBを設計する場合を例に挙げ、KiCadのプリント基板エディタの設定方法と設計時の注意点等をご紹介しましょう。

フレキシブルプリント基板(Flexible Printed Circuit Board、FPC)は、柔軟性のある材料で作られたプリント基板の一種です。従来の硬いプリント基板(Rigid PCB)とは異なり、FPCは折り曲げたり、ねじったり、変形させることができるため、コンパクトなデザインや三次元的な形状に適しています。

フレキシブルプリント基板の構造

一般的なFPCは、通常以下の層で構成されています。

基材(基板)

ポリイミド(Polyimide)やポリエステル(Polyester)などの高分子材料が使われます。これにより、基板に柔軟性が付与されます。

導電層

銅箔が一般的に使用されます。これが電気信号を伝達する経路になります。

接着剤層

基材と導電層を結びつける役割を果たします。

保護層

基板の表面を保護し、外部からの損傷を防ぐための層です。通常、ポリイミドフィルムやエポキシ樹脂が使われます。

FPC基板を設計するためには何か特殊な設定が必要なのか?と一瞬身構えてしまいそうですが、基本的には通常のプリント基板を設計する時と同じ感覚で作業できます。

ただし、いくつか注意点はありますので確認しておきましょう

多層回路には不向き

基本的にはポリイミドの基材の片面、あるいは両面に回路を構成する銅箔層を形成します。多層回路の構成も可能ですが、柔軟性などFPCのメリットが失われるため、4層ぐらいまでの多層回路形成が上限と考えておいた方がいいでしょう。

補強部分に厚みを持たせる必要がある

FPCと言えば先端に露出した端子を、別基板コネクタに直接挿入できるイメージがあります。ですが、基材のポリイミドは柔軟な素材で、そのままでは簡単に折れ曲がってしまいコネクタに差し込めません。

同様に、電子部品が密集して実装する部位などが存在する場合も、破損防止を目的として補強板を取り付けることがあります。

こういった注意点はありますが、それ以外は通常のPCBレイアウトを行い、製造用データ一式を生成すればFPCの製造は可能です。

PCBエディターの設定をFPC用にする

では、KiCadのPCBエディターでFPC設計を行う際に必要となる「基板の設定」について確認していきましょう。

プロジェクトファイルを作成後、PCBエディターを起動して「ファイル」-「基板の設定」の順にメニューを開きます。

最初に「物理的スタックアップ」を選択し、導体レイヤーの層数を決めます。

一般的な両面銅箔FPCであれば両面プリント基板と同じなので、導体レイヤー数は「2」です。

各層の設定を行う画面中央の「誘電体1」の項目が

タイプ:コア

材料:FR4

となっています。材料の項目右側をクリックしてサブメニューを開くと材料を変更できますので、「Polyimide(ポリイミド)」を選択します。

この時点では他の項目は特に変更しなくても大丈夫ですので、次の項目「基板仕上げ」に移ります。

メニュー上側の「端面スルーホール パッドあり」の項目にチェックを入れておきます。

このチェックが外れていると、FPC先端、外形端ギリギリにコネクタ差込用端子をレイアウトできなくなる場合があるので注意しましょう。

「基板端メッキ」については特に必要とするところはないのでチェックは外したままで大丈夫です。

「銅箔仕上げ」についても基本的に指定無しのままでも設計段階では大丈夫ですが、製造外注先で仕上げについて指定されている場合は項目から設定しておいた方が良いでしょう。

「エッジカードコネクタ」の項目については、基本的に「はい」を選択しておきます。

先の端面パッドあり設定と同様に、エッジカードレイアウトを有効にしておかないとFPC先端にコネクタ端子のパターンを配置できなくなるので必ず設定しておいて下さい。

選択項目の「あり、傾斜付」は、リジッド基板の時の処理方法になりますので、今回は「はい」のみを選択します。

ハンダマスク/ハンダペーストの項目についても、製造業者が決まっている場合は、業者が提示している製造仕様書の内容を確認してその指示に合わせて下さい。

基本的にはこの「基板の設定」項目を先に設定しておくだけでFPC製造用データのレイアウト設計が可能になります。

組み合わせて多機能な電子回路を設計しよう

近年ではオンライン発注で製造できる基板製造サービスでFPCにも対応している所が多いので、自作のドローンやロボット、電子機器の製作などにも積極的にFPCを取り入れてみて下さい。

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KiCadの達人
KiCad歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCadの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。