前後編に分けたKiCadの「計算機ツール」について、紹介の今回は後編になります。
計算機ツールを起動すると選択できる4つの項目の後半「高周波」「メモ」についてみていきたいと思います。
高度な回路設計に不可欠な「高周波」

「高周波」の項目では、まずRF信号(高周波信号)の波長計算が可能です。
その次に「RFアッテネーター」各種の計算が出来るメニューが用意されています。

RFアッテネーター(Radio Frequency Attenuator)とは
RFアッテネーター(Radio Frequency Attenuator)は、RF信号の振幅を減衰させるための電子部品または回路のことを指します。
その主な役割は「信号減衰による過負荷防止」です。RFアッテネーターは信号のパワーや振幅を特定のレベルまで減らし、後段の回路(受信機、アンプなど)に過剰なパワーを供給しないように保護します。
また、信号源と負荷の間でインピーダンスを整合させる効果があり、高周波信号の反射によるノイズ発生を防止します。
KiCadの計算機ツールでは代表的な4項目について選択し、使用する抵抗の値を計算できるようになっています。

RF信号とアッテネーターについて書くとこれだけでかなりのボリュームになりますので今回は解説を省略させて頂きます。高周波信号を取り扱う回路は通信機器を中心に広く利用されるようになっており、一度しっかりと学んだ上でツールを活用して頂ければよいかと思います。
「伝送経路」の項目では、更に色々な種類の伝送経路について項目ごとに計算、検討を行えるようになっています。

高周波信号は一般的に数MHz以上、特に数GHzにも達する周波数帯域の信号のことを呼称し、以下のような特徴を持っています。
1) 信号が波としての性質を強く示すようになります
電磁波の波長が短くなるため、伝送路の長さや形状が信号の動作に大きな影響を与えます。
2) 回路上で信号の反射や損失が顕著に表れるようになります
設計に不適切な部位があった場合、RF信号が反射や減衰する現象が顕著に表れるようになり、信号の通信品質低下につながります。
3) 基板全体のノイズ感受性が高まり、外乱対策がより重要になります
高周波信号は周囲のノイズの影響を受けやすく、プリント基板上だけでなく電子回路全体のシールドやグランド設計がより重要になります。
高周波信号を扱うためには、専門分野の学習を充分に行い、常に適切な評価が行える人員、環境の確保が重要になります。
もちろん研究や独自の探求のために設計する高周波信号を扱う電子回路についても、KiCadのツールを存分に活用してぜひ挑戦して欲しいと思います。
便利情報が並んだ「ツール」
最後は「ツール」の項目です。
ここでは前編でも紹介した「E系列」の一覧表、電気工学で基本となるカラーコード、プリント基板の設計基準を示したボードクラス、異種金属間に電位差が生じた際に発生するガルバニック腐食の確認表を閲覧できます。

「E系列」の項目では、抵抗の値を基準としてE1からE96の、各系列の基準値を確認できます。抵抗の値はこの表の数字と10の乗数で定められているものが実際に使用できる製品として生産されていますので選定の参考に利用できます。
「カラーコード」は、抵抗のカラーコードの読み方を図示した形で表示されています。

通常の抵抗は4本、又は5本の線が描かれており、その線の色で抵抗の値を計算できます。
4本線の場合は左から1本目が10の桁、2本目が1の桁を示しており、3本目が乗数(10のn乗)、4本目が誤差を示します。

例えば「470Ω」の場合、
1本目:「黄」→10の桁が「4」
2本目:「紫」→1の桁が「7」
3本目:「茶」→×10(10の1乗)
4本目:「金又は銀など」→金(±5%)、銀(±10%)が一般的
となります。
分野ごとに規定がある「ボードクラス」
「ボードクラス」は、IPC標準規格「プリント基板設計に関する共有基準」で定められている寸法の最小値構成をクラス1からクラス6に分類した内容を確認できます。

一般的な電子製品はクラス1が適用されることがほとんどですが、先の高周波通信機器や産業用電子機器、一部の医療機器などはクラス2以上が求められます。
クラス3以上は航空宇宙機器や人工心肺等の高度な医療機器といった、厳しい環境下でも高い信頼性が求められる電子回路の設計に適用されます。
ボードクラスの項目は表示寸法を選択できるようになっていますので、PCBエディターの設定を行う際の参考にして下さい。
今後重要になりそう?「ガルバニック腐食」
最後の項目では「ガルバニック腐食」の相関表を確認できるようになっています。
コネクタや固定に使用されている金属部品との間に電位差が発生している場合に生じる腐食現象で、電子回路の中でこの現象が発生する頻度は多くはないと思われています。ですが、今後IoT機器が屋外で利用されたり、さまざまな金属素材で製造された電動モビリティの普及が進むと、この現象によるトラブルが発生する頻度が上がるのではないか?という意見もあるため知っておいて損はない表だと思います。

この表では、各種金属/合金の電気化学的特性を示しており、正の数値で示されている場合は行が陽極、列が陰極を示しています。
陽極を構成する金属は酸化され侵食していきますが、陰極は溶解した金属でメッキされ保護される現象が発生します。最終的には接合部の剥離や分断が発生して故障の原因となりますので、機器開発時にあらかじめ構成を配慮しておく必要が生じることもあります。

KiCadの計算機ツールを使わなくてもプリント基板は設計できます。ただ、より高度な設計開発を行う上では避けられない計算や基準値の数々がまとめられている便利な機能であることも確かですので、EDAとしての操作に慣れてきた方は是非、次のステップアップの為に計算機ツールを活用してみてはいかがでしょうか。
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