KiCADの強み/弱み〈強み編〉

本記事から2回にわけて、KiCADの強みについて著者の考えをご紹介していきます。

なお、記事は「強み編」「弱み編」にわけて取り上げ、本記事では「強み」についてのみ扱います。

無償ソフト最大規模のEDA統合ソフトウェア「KiCAD」

前提として、KiCADとは、電子回路図とプリント基板の設計を行うためのソフトウェア・ツールセットです。

最大の特徴として、オープンソースのフリーウェアでありながら使用用途に制限がなく、趣味の電子基板から商用開発にいたるまで機能制限なく使用できることが挙げられます。

なお、ソフトウェアとして有償化されない代わりに、公式サイトでは活動支援を目的とした募金の受付フォームやスポンサード申込窓口が設置されています。

また、2022年末時点での最新バージョンは「6.0.10」となっており、豊富な回路図シンボル、基板フットプリントのライブラリをインストール直後から利用することができます。

さらに、KiCADは、他社ベンダーにおいては個別に提供される回路CADや基板CAD、サポートツールといった各種エディタが統合環境下で連動した状態で使用することができます。
それにより、プロジェクト単位で効率のいい回路設計や基板開発を行うことが可能です。

「フリーランス電子回路エンジニア」という働き方も可能とした統合環境

環境面については、企業の部署内使用や学校の授業への活用などにおいてもデータの管理や共有を自在に設定し、環境構築を行うことができます。
また、ソフトウェアの導入や使用について追加の費用は発生しません。それにより、フリーランサーが依頼元にもKiCADを導入してもらい、設計したプロジェクトファイル一式を納品し、その後の製造やデータ管理を引き継いてもらうという使い方も可能になりました。

電子回路基板の設計開発においては、技術漏洩防止の観点から、長期にわたり企業同士の業務委託・外注が主流の時代が続いてきました。

リモートワークを評価する企業の中には、個人単位のフリーランサーと業務委託契約などを経て、設計開発の多くを依頼するケースも現れつつあります。
世界と比較すると、決して国内では事例が多いとは言えませんが、国外では少しずつこうした動きが広がりを見せています。

また、大学や研究機関においては、研究者自身が評価用の回路基板をプリント基板として直接設計・製造することにより、さらなる研究のサイクルの向上も可能になりつつあります。
こうした多様な勤務形態をとる技術者にとって、KiCADは非常に優れたEDAツールセットとして、その業務を支援してくれる存在であるといえるでしょう。

設計用データの追加・編集・新規作成の自由度の高さ

KiCADは、設計用データの追加・編集・新規作成における自由度の高さを誇ります。

もし回路図エディタ、プリント基板エディタを使用している時に、ライブラリに該当する回路図シンボル、部品フットプリントが見つからなかった場合も心配はありません。

世界各地で提供されている豊富なライブラリデータをダウンロードすることで、使用中のエディタに追加することができるためです。

さらに、開発中の半導体や試作の回路モジュールなどのように、世の中に存在しないシンボルやフットプリントについても、「シンボルエディタ」「フットプリントエディタ」で作図して追加することができるため、研究開発段階の評価基板なども効率よく設計を進めることができます。

設計された基板データは、基板製造において一般的な拡張ガーバー・フォーマットの出力に対応しています。

そのほかにも、3DモデルデータやDXF、PDFファイルなどの書き出しにも対応していることから、経過報告のようなさまざまな資料作成にも活用することができます。

プラグインによる機能追加、カスタマイズが可能

KiCADでは、設計用のライブラリデータ以外にも、Pythonプラグインを使用しさまざまな機能追加を行うことができます。

Ver.6シリーズ以降では、実装された「プラグインとコンテンツマネージャー」を経由することで、各エディタの使い勝手を向上させるツールから基板製造業者への発注支援ツールにいたるまで、便利な機能をこれまで以上に簡単に追加することができるようになりました。

また、追加機能以外も、ソフトウェア本体も世界中の有志によるコミュニティの管理下で定期的なバージョンアップが進められており、高機能なツールとして常に最新版を入手することができます。

まとめ

これまでご紹介してきたように、KiCADはホビー用途から商用業務、研究開発まで制約なく使用できるEDA統合環境です。

機能やデータも適時追加・作成することができ、自由にカスタマイズできる電子回路設計ツールとして、今後も多くのエンジニアを支援するべく提供され続けることを願っています。

本記事では、ここまで「KiCADの強み」についてご紹介してきましたが、その反面弱みや問題点が存在することも見逃すことはできません。

むしろ、2022年に提供されたVer.6シリーズ以前から使用してきたKiCADユーザーにとって、この1年間は「大変な目に逢った」という多数の声が聞こえてきたことも事実です

続く記事では、「弱み/問題点編」として、こうしたネガティブな面も合わせて紹介していきます。

また、最後に重ねて申し上げますが、KiCADの公式サイトでは、問題点を解決しさらなる使いやすさを追求した改良を継続して実施し、これからも無償ソフトウェアとして提供され続けるために、常時寄付金やスポンサーの募集を受けつけています。

ご賛同やご支援をいただける方は、ぜひ一度公式サイトもご覧ください。

ABOUT KiCAD MASTER

KiCADの達人
KiCAD歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCADの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。