今回は記事を数回に分けて、電子部品一つに焦点を絞って設計開始前の準備からPCBのアートワークまでをたどってみようという記事の2回目になります。
前回はトランジスタ「2SC3074」を例に挙げて、部品の選定から回路図エディターにシンボルを読み込むまでの作業の流れと注意についてご紹介しました。
パッケージ情報の確認からプリント基板アートワークまで
今回は最初にシンボルから簡単な回路を描きます。そこから続けてフットプリントの割り当て、実際にプリント基板のアートワークを作成するところまで一気に行います。
回路図エディターに配置したNPNトランジスタのシンボルを選択、右クリックしてサブメニューを開きましょう。
サブメニューから「プロパティ」を選択して表示します。
今回選択しているシンボル「Q_NPN_BCE」は、特定の半導体を示している物とは異なり、汎用的に使用するために用意されているデータです。
読み取り専用シンボルのピン情報は閲覧だけ
また、「ピン機能」のタブをクリックすると、現在のピン番号と信号名の割り当てを確認できます。ただし、KiCadの標準シンボルは読み取り専用になっているため、ピン機能の項目は基本的に編集できません。あくまでも確認用に利用し、使用したい回路とピン構成が異なる場合はシンボルの再選択をするようにしましょう。
汎用シンボルの場合、プロパティの一般選定項目は最低限の情報しか追加されていません。特にフットプリントは割り付けされていない状態が大半ですので、ここに使用したい部品のパッケージ情報を調べてフットプリントを割り当てます。
回路図を描き切ってからフットプリントの割り当て画面でまとめて作業する方法は別記事で紹介していますが、今回は部品の数も最小限なので、この段階で先に割り当ててしまいます。
フットプリント選択画面を開き、該当するパッケージ仕様を検索して割り当てます。
メーカーのデータシートにフットプリント情報があるかな・・・
ここでもう一度、メーカーのデータシートを確認してパッケージ仕様の情報を探します。
今回のトランジスタのデータシートには「2-7J1A」という記載があります。
他には目立った情報が無いため、この型式で検索をしてみても、KiCadのライブラリには該当するデータがありません。
更に、フットプリントエディターで作図するために情報を得ようとWEBで探しても、この型式で該当する情報はほとんど出てきません。
実は、ここでデータシートに記載されているパッケージ型番は、フットプリントのための形状を示す共通規格の番号ではありません。東芝製半導体のデータシートの多くがメーカー出荷状態のトレー等を含んだ「梱包=パッケージ」の型式を記しています。
今回のデータシートはまさにそうでしたが、各社の半導体のパッケージについても、寸法図が掲載されているのにフットプリントを確認できる型式そのものは記載されていない、というケースが結構あります。
これではプリント基板をレイアウトするためのフットプリントが分かりませんので、寸法図に記載されている形状とピン配置を参考に、対応する仕様を探します。
販売業者のWEBサイトの方が情報が整っている場合もある
ここで、前回の記事でも検索したDigikeyの検索結果画面を見てみます。
下段の仕様表に「パッケージ/ケース」の項目があり、ここに「TO-252-3」「SC-63」という記述を見つけました。この型式が世界基準で統一化されたパッケージの形状を示す型番になります。
「SC-63」は検索結果が出てきませんでしたので「TO-252-3」の方で検索を進めます。
すると、該当するフットプリントがいくつか出てきました。
入手した情報通り、TO-252-3で選択したくなりますが、ここでもう一度、データシートのピン配置と部品の形状をよく確認します。
ピン配置は問題無さそうですが、2番ピンのコレクタは放熱板と接続されていて、更に実装用のピンは切除されています。
よって、実装用のパッド部分は1番ピンと3番ピン、2番は放熱部分で半田付けする形状を選ぶ必要があります。
フットプリントのプレビューもよく見よう
今回検索した結果表示されている候補は三つありました。
まず一つ目は問題なく使用できそうですが、2番ピンの部分が未実装のまま、はんだ付け用のパッドが露出するのであまり推奨できません。
二つ目は「TO-252-3_Tabpin4」となっています。
このフットプリントでは放熱板の部分に独立したピン番号4が割り振られているため、今回使用したいトランジスタとはピン配置が異なり使用できません。
三つ目の「TO-252-2」は、1番ピンと3番ピンにパッドが割り当てられていて、2番ピンは放熱板と兼用で、個別のパッドは除去されています。
メーカーのデータシートで記されているパッケージ形状にはこれが最も適した形状をしていると言えますので、今回は三つ目の「TO-252-2」を割り当て登録します。
シンボルのフットプリントを割り当てましたので、次にプリント基板を設計するための簡単な回路を作図します。
トランジスタの試験回路図を描く
データシート内にある、スイッチング時間を測定した参考回路を基にした回路にしてみましょう。
回路内に使用する抵抗が2個あります。本来ならば使用環境を定めてきちんと計算した抵抗値を選定する必要がありますが、今回は作業手順の説明を優先したいので、ここでは「抵抗値R」のまま作業を進めたいと思います。
実際に設計、製作してみたい、という方は必ず増幅回路の計算をして適切な抵抗値で設計して下さい。
描いた回路図が以下になります。
入力、出力のコネクターは、今回は2.54mmピッチのピンヘッダーを割り当てました。
シンボル全てにフットプリントを割り当てましたので、プリント基板エディターに回路図の情報を反映してフットプリントを読み込みます。
参考用でもあるので、ここではシンプルにレイアウトして基板の形に整えます。
ひと手間の注意が必要な「塗りつぶしゾーン」
コレクタには大電流が流れることが想定されますので、ゾーンを利用した塗りつぶしで銅箔の面積を確保します。
このあと、GNDも面積を確保するために基板の表面を最大限に塗り潰すことにします。
中央で既にコレクタの導体が塗り潰されていますが、一旦気にせず基板の縁いっぱいまでゾーンを追加して塗りつぶしを実行します。
手順としては通常通りの流れで進めているのでつい見落としがちになりますが、先に塗りつぶしゾーンが存在している状態で重ね描きするように描いたゾーンの塗りつぶしを実行すると、先に塗り潰したエリアと重なり配線が短絡する問題が生じます。
こんな時は慌てずに、まず「全てのゾーンの塗りつぶしを削除」を選択して一度塗りつぶしを全部削除しましょう。
その後もう一度ゾーンのメニューから「全てのゾーンを塗りつぶし」を選択して再度塗りつぶしを実行します。
すると、ゾーン間のクリアランスが自動で調整され、重ね描きされずに塗りつぶしを実行できます。
- 回路の配線などに起因して、すべてにおいて完全なクリアランス確保が出来ない場合もあります。その場合は手動編集も並行して行ってください。
基板上の配線としてはこれで大体良いと思いますが、今回のトランジスタはコレクタが放熱板と兼用されています。動作条件においては相当な熱量の発生が考えられるため、現状のレイアウトのままでは充分な銅箔面積が確保できているとは言い難い状態になっています。
放熱を意識した塗りつぶしゾーンを設ける
現状の導体層で塗りつぶしゾーンの範囲を調整して、コレクタに接続されている面積を拡大する方法もあります。ただし、発熱は周囲の半田付け部への悪影響を与える恐れもあるのでゾーンの配置と同時に部品のレイアウトに充分な余白を確保することが推奨されています。
今回のような基板レイアウトの場合、周囲の部品とのクリアランスを確保しながら放熱を目的とした銅箔の面積を確保する方法として、裏面に放熱用の塗りつぶしエリアを作図して追加する方法があります。実際に裏面に放熱ゾーンを追加してみましょう。
裏面の塗りつぶしをスムーズに行うために、先にトランジスタの放熱パッド部分にサーマルビア(貫通ビア)を追加します。
充分な数のサーマルビアを配置したら、裏面に塗りつぶしゾーンを追加します。
先に塗りつぶしを実行してからサーマルビアを追加する方法もありますが、裏面に放熱部と電気的に繋がっている配線やビアが無い状態では、塗りつぶしが自動で処理できないため再度割り当て作業をやり直すことになりますので注意して下さい。
裏面なのでもっと面積を広げても良い気がしますが、入力、出力のピンに熱を伝えたくないのでこの位でいいかと思います。
実用的な回路としてはこれでは不十分なのは重々承知ですが、作業手順としてはこの様な流れで基板レイアウトまで設計を行う事が出来ます。
慌てず急がずコツコツと
はじめてKiCadで回路設計に挑戦しようとされる方は、いきなり本格的な回路の設計に着手するのではなく、今回のような部品単体と簡単な回路で基板レイアウト迄の一連の作業を練習してから段階的に規模を大きくしていくことをお勧めします。
「千里の道も一里から」「急がば回れ」とも言います。自分の手足のようにEDAを使いこなして、是非思い通りの電子回路を作れるようになってください。
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