設計作業事例:トランジスタ基板(その1)

KiCadを使った作業事例を紹介する記事を数回に分けて、電子部品一つに焦点を絞って作業前の準備からPCBのアートワークまでたどってみたいと思います。

回路設計も事前の準備が大事

今回は回路を構想する段階で必要になる部品の選定についてお話していきます。

マイコン制御が広く普及することによって照明、通信、電動モーターとさまざまな電気で動作する機器を自在に制御できるようになりました。

その分、制御信号は少ない電力で動作し、制御対象には大電力の供給を制御可能な半導体が世界中で開発され広く普及しています。

大電力スイッチング用NPNトランジスタ、東芝「2SC3074」

ここでは電子部品に関する質問であがって来ることも多い大電力スイッチング用NPNトランジスタ、東芝製の「2SC3074」を使用して話を進めて行きます。

コレクタが放熱板を兼用する構造の表面実装タイプ、部品高さを押さえた構成ができるため好んで使用する人も多い半導体部品です。

但し、今回使用する「2SC3074」そのものは2024年時点でメーカーから製造中止品として発表されています。市場流通品や在庫で保有しているものを使用するのでなければ、代替品を選定し直すことをお勧めします。

今回は入手できる半導体と同じとみなしてこのまま進めますことをご了承下さい。

回路を設計する際は最初に使用する電子部品の型番(今回は「2SC3074」)をWEB検索し、メーカーサイトからデータシートを入手します。

東芝デバイス&ストレージ株式会社での「2SC3074」データシートリンクはこちら

検索結果は東芝のWEBサイトにデータを見つけることができましたのでこちらを入手して仕様が目的を満たしているか確認しましょう。

メーカーサイトと販売業者サイトを使いこなそう

検索を実施してもメーカーの製造中止に伴いデータシートへのリンクが切れているということもあります。

そんなときはMouser ElectronicsやDigiKeyのような販売業者のサイトに掲載されている情報ページから閲覧、データシートをダウンロードする方法もあります。

「日本語版データシートは削除されていたけど英語版は保存されていた」なんてこともよくありますので、英語はちょっと・・・としり込みせずに一度閲覧してみて下さい。

DigiKeyのWEBサイトで検索すると、一番最初に「製造中止品です」の文字が出てきました。残念ながらDigiKeyからは指定型番そのものは購入できなくなっているようです。

電子部品の製造中止品情報(EOL=End Of Life)については各メーカーのWEBサイトに一定期間掲示されます。ここ数年は半導体メーカー各社の生産体制が再整備されたりしている影響もあり、製造休止/中止や上位互換のモデルに統合されることによる型番変更等が頻繁に行われています。

新規に回路設計を行うさいにはデータシートによる性能確認だけでなく、大手販売業者のサイトも同時に調べて製造状態と流通状況をしっかり確認するようにしておきましょう。

EOLに関しては、メーカーが公開する製造中止品情報が部品1個だけについて発表されるということは少なく、大体のばあい数種類から数百種類が一斉にリスト形式で発表されます。

その中から検討している1種類だけを見つけ出すというのも大変な作業になりますし、部品の情報を調べることは設計作業の準備段階でしかありません。できる限り手軽に確認して次の工程に進みたいので、生産状況については販売業者の検索結果に表示される情報で確認することをお勧めしています。

今回のような製造中止品の扱いについては業者ごとに異なります。

具体的に3社、実際に検索してみましょう。

Mouser Electronicsで検索

最初はMouser Electronics、米国を本拠地として拠点集約型の巨大流通網を有する大手販売業者です。

検索結果は「在庫なし」となり在庫状況や価格、仕様などの情報にもアクセスできませんでした。ただし在庫状況の項目は「在庫なし、電話での見積もりを希望」というリンクが設置されています。

リンクをクリックすると、問い合わせ先として日本のグローバル支店へのアクセス情報が表示されます。企業や教育機関などで緊急の再生産や研究用といった、どうしても一定数の調達が必要な場合は別途見積を依頼できるようになっています。

DigiKeyで検索

次はDigiKeyです。

上でも画像を表示してありますが、検索結果は「製造中止品です」と表示され、そのものの購入はできないようになっています。

そのかわり、検索結果の部品に関する仕様(製品属性と表示されます)はそのまま掲載されていますので、データの確認は問題なく行えます。

また画面右側に「代替品を表示します」というリンクが張られているのですが、このリンクをクリックせずに検索結果ページを下にスクロールしてみてください。検索結果が製造中止品だった場合などは、ページの末尾に「代替品リスト」が表示されていると思います。

通常流通品でも候補があれば同様にリストが表示されているので、ここから代替部品を検討できるようになっていて便利です。

ただし、あくまでも「類似」であって「互換」が確保できるかは我々回路設計者の判断になります。ひと手間増えますが代替品候補の仕様についても必ず自身で確認するようにしましょう。

chip1stop(チップワンストップ)で検索

三つ目はchip1stopです。

chip1stopでは登録されている情報がすべてリスト表示されます。

流通状況をライフサイクルという項目で掲載していて、今回のトランジスタでは「廃止品」と表示されています。

他2社と違う点としては倉庫に在庫がある物については予定納期と在庫数が表示され、個別に購入が可能になっています。

また、Mouser Electronicsと同様に別途見積依頼も可能です。

設計した回路の製作に必要な個数が、chip1stopのWEBサイトに在庫として表示されていれば、生産中止品でも即発注して入手できます。

ただし注意点として「WEBサイトの在庫状況はリアルタイムではない」ことに注意して下さい。

筆者も数年前の半導体争奪戦のような状況下で回路試作を行ったときはchip1stopをよく利用しました。在庫数に表示されている全ての購入手配を行ったところ、決済中に「在庫数が足りません」という連絡が来て数量調整に手間取ったことがあります。

製造中止品でも入手方法は意外にある

特に今回の例のような「ベストセラー半導体が製造中止」となったばあい、電子機器を製造するために半導体を使用する企業を始めとして、在庫確保のために事実上の「買占め状態」を起こすことがあります。

この様な「買占め部品」が後に余剰在庫となり、東京の秋葉原や大阪の日本橋の店舗販売で流通することも多いです。数百個の入手は難しくても数個、十個程度なら店舗で購入できるという不思議な逆転現象が起きるのもまた特徴的な世界ではあります。

今回のトランジスタはまだしばらく入手できそうなのでこのまま進めて行きます。

KiCadの回路図エディタにシンボルを読み込む

KiCadの回路図エディターを起動し、シンボルを配置します。

検索ウィンドウに「NPN」でキーワード入力を行うと、ライブラリに登録されている候補が表示されます。

おそらく最初に候補として表示されるNPNトランジスタのシンボルをそのまま使用しても良いのですが、このシンボルはピン番号の情報が明記されていません。もう少しだけ情報を絞り込みましょう。

データシートを確認すると、ピン配置と信号名が記載された図があります。

この図から

1ピン:ベース

2ピン:コレクタ(放熱板)

3ピン:エミッタ

とレイアウトされているのが分かりますので、シンボルの候補からピン番号も明記されている「Q_NPN_BCE」を選択して配置します。

シンボルの「ピン配置」は重要ポイント

シンボルの形が同じなので「最初のNPNでも良いのでは?」と思われる方もいるかもしれません。

一見問題なく使用できるシンボルに見えますが、「NPN」をシンボルエディターで開いてみると

1ピン:コレクタ

2ピン:ベース

3ピン:エミッタ

となっていて、ピン配置が目的の部品と異なることが確認できます。

これは決して間違いではなく、半導体の世界では用途によってピン配置が異なる製品が膨大な種類、市場に存在していることから、こういったピン配置違いのシンボルがデータ化されています。

そのことをしっかりと覚えておき、回路作図の段階でピン配置やその他データを確認する癖をつけておくと良いと思います。

次回の記事では選定したシンボルで参考回路を作図し、フットプリント割り付けといくつかパターンを変えてレイアウトを描く作業についてご紹介します。

ABOUT US
KiCadの達人
KiCad歴15年程度。雑誌記事や教育用テキストの執筆経験等複数あり。私大電気電子工学科での指導とフリーランスエンジニアを兼業しながらFab施設の機器インストラクターや企業セミナー講師を歴任し、KiCadの普及と現代の働き方に対応した技術者育成に務める。